地道な情報収集と合理的提案をする“普通の投資家”という「モノ言う株主」像を提示 評者・平山賢一
『「モノ言う株主」の株式市場原論』
著者 丸木強(ストラテジックキャピタル代表取締役)
中公新書ラクレ 924円
「モノ言う株主」は、どのような行動原理で上場企業と対峙(たいじ)しているのだろうか? 投資先企業の経営者に対して、積極的に関与して提言していくため、別名アクティビストとも呼ばれるが、これまでその実態はベールに包まれていた。本書は、わが国のアクティビストの草分けとして業界をリードしてきた著者により、迫真のタッチで実像が描かれているだけに、読者を捉えて離さないだろう。
われわれが抱くアクティビストのイメージは、狙いを定めた企業の株主になって、企業経営の修正を迫るというこわもての猛者かもしれない。限られた情報をつかみ、特殊な能力を生かして、強引に株価を上昇させて売り抜けるというプロセスが思い浮かぶからである。だが、本書で記される実像は、全く異なる。モノ言う株主といっても、地道に情報を収集し、市場原理にのっとった判断を経営者に提案しているに過ぎない存在として描かれている。アクティビストは、特殊な存在ではなく、あたり前のことを実施している存在というわけだ。
従来、年金資金や保険の運用を専業とする機関投資家は、論争含みの議決権行使や、企業への提案をしていなかったが、最近こそアクティビストの姿勢に近づいてきている。日ごろから、企業経営者との対話に時間を割き、環境や人権、取締役構成などについて議論するようになってきているのである。また、機関投資家による議決権行使も、義理・人情にこだわらず、専ら株主利益の最大化を目指すようになっている。
スチュワードシップ・コード(機関投資家などのあるべき姿を定めた指針)の浸透により、モノ言わぬ株主としての機関投資家は過去のものになったのだ。まさに著者が指摘するように、「時代がアクティビストに追いついてきた」のである。つまり、本書は、特殊な株主のことを描いたようにみえるが、これからの時代の普通の株主の在り方を示しているといえよう。
一般に、企業を選別投資した成果は、株式市場の動きを代表する株価指数のパフォーマンスを下回るとされている(低い勝率)。株価は効率的に決定されるため、市場のゆがみなどを利用した銘柄選別が機能しにくいとされるからだ。だが、わが国の勝率は、欧米を上回るという調査結果があり、モノ言う株主の活躍の余地が残されている可能性もある。これからのわが国の株式市場の発展にとって、大いに期待したいところである。
(平山賢一・東京海上アセットマネジメントチーフストラテジスト)
まるき・つよし 1982年、東京大学法学部卒業。野村証券入社後、主に日本企業や政府関係機関の資金調達案件などを担当。2012年にストラテジックキャピタルを設立、代表取締役に就任。
週刊エコノミスト2024年8月6日号掲載
『「モノ言う株主」の株式市場原論』 評者・平山賢一