経済・企業 SDGs最前線

⑬ウィズテック、60秒の「ショート動画」でIT人材を育成、SNS世代のリスキリング需要に応える

ウィズテックは60秒の動画でリスキリングできる教材を提供している(同社提供)
ウィズテックは60秒の動画でリスキリングできる教材を提供している(同社提供)

 国連が2015年に採択した、17の目標からなるSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsやサステナビリティ―(持続可能性)の考え方を成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。本連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。

 第13回目は、企業にリスキリング(職業能力の再開発)サービスや、エンジニアの専門スキルを提供するウィズテック(東京・中央区、日向亮介社長)を取り上げる。同社は企業や会社員を対象に、1分程度の動画を用いてIT・経営関連の資格取得やスキルアップを後押ししている。日向亮介社長は「親しみやすいショート動画を活用し、会社員に質の高い教育やより気軽に学びやすい環境を提供したい」と話す。

ウィズテックの日向亮介社長
ウィズテックの日向亮介社長

【ウィズテックが実践する主なSDGsの目標】・目標4(質の高い教育をみんなに)・目標8(働きがいも経済成長も)・目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)

料金は年5万5000円、コンテンツは1300本に

 パソコン上のソフトウエアを開き、「SDGs」のボタンをクリックすると、用語を紹介するアニメーションと音声が流れ始めた。カラフルな動画で17の目標や169のターゲットなどの要点を音声で解説してくれる。その間、たった60秒。資格試験のための一つ一つの用語を短く解説し、気軽にかつ飽きずに読んで理解してもらう工夫だ。数十語に1回の割合で「理解度テスト」があり、復習しながら到達度を図ることもできる。

ショート動画を活用した同社のリスキリングサービス「WizGaku」の対象となる資格は、情報処理の国家資格「ITパスポート」のほか、ゲーム開発やウェブデザイナーの養成など。専門的な内容や実践を伴うコンテンツは5分程度になることもあるが、大半の動画の長さは1分にすぎない。

すでにIT関連のほか、経営組織論、法務、開発技術などの分野で500の用語解説のコンテンツがあり、近い将来に1300本程度まで増やすという。コンテンツは専門家の監修を受けているが、料金は年5万5000円と、資金が潤沢とはいえない中小企業でも手を出しやすい。同社は今後1~2年で1000社程度にサービスを提供することを目指している。

開発のきっかけは小学生の娘のティックトック 

ショート動画の教材を開発したきっかけは、日向社長が小学校4年生の娘が動画共有アプリ「TikTok」(ティックトック)を見るために、スマートフォンに同アプリをインストールしたことだった。SNSで短時間のコンテンツに慣れている若い世代には、従来のリスキリングの教材は途中で飽きられやすい。「ティックトックを見ているうちに、短時間のコンテンツの方が、学習の達成感を得られやすく、隙間時間などを利用しやすくなると考えた」という。

エビリー社(東京・渋谷)の調査によると、動画共有サービス「ユーチューブ」に投稿されたショート動画の本数は、2022年12月に2年前(21年1月)と比べて10倍に急増した。時間的効率を追求する「タイパ(タイムパフォーマンス)」志向が若い世代を中心に広がり、短時間の動画で効率よく情報を得たい人が増えている。

日向氏は「私自身がこれまで経営やコンプライアンス(法令順守)などのeラーニングを受けてきたが、見終わるまで1時間程度かかることもあった」と指摘。「30分の動画を見て五つのことを覚えるより、30秒の動画を見て一つのことを覚えた方が効率が良い」と話す。

ウィズテックのオフィス(東京・中央)(同社提供)
ウィズテックのオフィス(東京・中央)(同社提供)

社員の8割は非IT人材、リスキリングでプログラマーに

 経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、日本では2030年に最大で約79万人のIT人材が不足する。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化などによりIT需要が増えているにもかかわらず、少子・高齢化で生産年齢人口が減少していることが背景にある。老朽化した基幹システムが増える「2025年の崖」も近づく。人材不足の対策をしなければ、年12兆円もの経済損失が出るとも言われる。国内のIT人材の需給がひっ迫し、新たな採用が難しいのならば、リスキリングを通じたIT人材の育成は不可欠だろう。

実はウィズテックの社員の8割は、もともとはIT知識の乏しかった未経験者。同社は研修やリスキリングを通じてプログラマーやSES関連の人材を養成してきた。同社では、WizGaku などによるeラーニングは入社時のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=実地訓練)で実施するほか、仕事時間以外で自主的にやってもらうという。勉強だけでは短期的な企業収益を生むことはできないからだ。日向氏は「現場での仕事による収益確保とリスキリングによる自己研鑽を両立することが重要だ」と話す。

日向氏は「人口が減り続ける現在は、学生に会社が選ばれる時代」と指摘。「採用の面談でも、応募者から『どんな社内教育を受けられるのか』『社員のキャリアプランをどう考えてもらえるのか』という質問が相次ぐ」と話す。きちんとした社内教育の制度がない企業は、内定の受諾率も低くなり、離職率も高くなりやすいのだという。

「質の高い教育をみんなに」

 SDGsでは目標4で「質の高い教育をみんなに」を、目標8で「働きがいも経済成長も」を掲げている。学びやスキルアップによる生産性の向上と自己実現の両立は世界共通の課題でもある。日向氏は「オンライン教育を安価に提供することを通じて、質の高い教育を提供したい」と強調する。リスキリングで能力を高めれば、自分が「やりがいがある」と思う仕事につきやすくもなるという。

 いつでも、どこでも学ぶことのできるオンライン教育は、「都心に住んでいなければ」、「使える時間やお金が潤沢になければ」質の高い教育を受けづらいという従来の教育を変えつつある。新たな技術と時代に合わせた「1分秒動画」のリスキリング教材は、若い世代の能力向上に向けた選択肢の一つとなりそうだ。(編集協力 P&Rコンサルティング)

【筆者プロフィール】

SACCOの加藤俊社長
SACCOの加藤俊社長

加藤俊

かとう・しゅん(株式会社SACCO社長)

 企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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