経済・企業 SDGs最前線

⑫新日本リプラス――物流用パレットのリサイクルでCO₂削減と不法投棄による環境破壊の防止を実現

新日本リプラス経営戦略部の小場大輔氏
新日本リプラス経営戦略部の小場大輔氏

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。

 第12回目は、プラスチックのリサイクル事業を手掛ける新日本リプラス(東京・荒川)を取り上げる。同社は不要になったパレットなどの物流関連の資材を買い取り、再生原料に生まれ変わらせている。年1万トン以上の再生原料を出荷し、25メートルプール6万個分以上の二酸化炭素(CO₂)を削減している。経営戦略部の小場大輔氏は「リサイクルはCO₂を削減できるうえ、産業廃棄物の不法投棄による環境破壊も防げる」とその意義を強調する。

【新日本リプラスが実践する主なSDGsの目標】・目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)・目標12(つくる責任つかう責任)・目標13(気候変動に具体的な対策を)

パレットを粉砕してリサイクル原料に加工

物流関連の荷物を載せる荷役台であるパレット(新日本リプラス)
物流関連の荷物を載せる荷役台であるパレット(新日本リプラス)

 物流関連の荷物を載せる荷役台「パレット」がうずたかく積み込まれた自社トラックが工場に到着する。従業員らがそれらを降ろし、重さを計って種類や色ごとに仕分け始めた。搬入されたのは古くなってくすんだ青、黄、緑などのプラスチック製パレットだ。これらを機械で半分に裁断して粉砕機の投入口に入れて砕き、洗浄、脱水、乾燥する。新日本リプラスの茨城工場に搬入されるパレットは1日当たり30トン。多くの従業員が資源循環の第一段階に携わっている。

 古くなったパレットは強度が落ち、フォークリフトなどで持ち上げる時に砕けてしまう。このため、化学、食品メーカーや物流業者、卸売市場などはお金を支払って産廃業者などに引き取ってもらっていた。こうした廃棄コストは企業にとってばかにならない。新日本リプラスはこうした古いパレットや折りたたみコンテナ(オリコン)、ケースなどを買い取り、工場でフレーク(粉砕しただけのもの)やペレットなどに加工。パレットメーカーやリサイクル品を製造する企業などに販売している。

 こうしたリサイクル原料は、最終的には新しいパレット、オリコン、ケース、DIY関連などの製品となって企業や消費者に届けられる。強度が落ちない程度に再生原料を混ぜていることから、値段も安く販売できるという。環境意識の高まりもあって、同社が取り扱う廃プラスチックの量は右肩上がりに増えている。

25メートルプール6万4000個分のCO₂を削減

 新日本リプラスでは、2024年5月期に約1万6000トンの資材を再生資源に変え、約6万4000トンのCO₂を削減できるという。これは25メートルプール6万4000個分の体積に相当する。仮にリサイクルせずに新品を購入する場合は、原料となる石油などの採取や新しいプラスチック製品の製造工程でCO₂が発生するからだ。さらに使用済みのプラスチック製品を処分する際にもCO₂を排出してしまう。

古いパレットを工場でフレークなどに加工する(新日本リプラスの茨城工場)
古いパレットを工場でフレークなどに加工する(新日本リプラスの茨城工場)

 資源エネルギー庁によると、19年の日本のCO₂排出量(11億794万トン)を部門別で分類すると、産業部門・工業プロセスからの排出量は3億2437万トンと、全体の29.3%を占めている。このうち18.6%は化学分野からの排出だといい、その主要部分をプラスチックが占めている。

 プラスチックなどのリサイクルは、産業廃棄物の不法投棄を防ぐことにもつながる。環境省によると、22年度末の不法投棄等の残存件数は2885件、残存量は1013.5万トンに達している。大量のごみを処理する手間やコストを省けることも利点だ。新日本リプラスの小場氏は「まだまだ埋もれているリサイクルの原料は多い」と指摘。「今後はリサイクル原料の種類も増やしていきたい」と話す。

「リサイクルでみんながウィンウィンに」

 取引先にとっても、新日本リプラスの存在は大きい。多くのパレットを使う千葉市卸売市場協力会の大塚和雄事務長は「今までお金を払って委託業者に(廃棄を)お願いしていたものが、逆にお金をもらっている。古い資源がパレットやケース類に生まれ変わるかもしれない」と指摘。「みんながウィンウィンになれる輪を作れていることに大きなメリットを感じている」と喜ぶ。

 食品卸の日本アクセス(東京・品川)の工藤拓サステナビリティ推進課長は「新日本リプラスほど広い範囲で有償回収してくれる企業はほとんどない」と評価する。同社は茨城のほか、東京、神奈川、愛知、大阪、マレーシアにも工場を持っており、広範囲での回収が可能だ。さらに資源回収の自社トラックが約20台あり、企業が廃材を回収してもらいたい時に迅速に動ける強みもある。

将来は廃プラ買取りからリサイクル品の製造・販売まで、アジア進出も目指す

新日本リプラスは自社トラックを多く持つのが強み
新日本リプラスは自社トラックを多く持つのが強み

 新日本リプラスの小場氏は「将来的には廃プラスチックの買い取りからリサイクル品の製造・販売をワンストップでプロデュースできるようになり、真の循環モデルを完成させたい」と将来像を語る。「単純な『リサイクル屋』から、企業にリサイクル関連のコンサルティングもできる総合リサイクル業になることが目標だ」とも話す。廃プラを再生原料に加工する量も、数年で現在の1万6000トンから3万6000トンに拡大したいという。

 同社はリサイクルやCO₂削減が遅れるアジアへの進出も視野に入れる。日本だけでなく、東南アジア諸国や中国を含めれば産業廃棄物のリサイクルの余地は「無限に近いほど大きい」(小場氏)からだ。すでにマレーシアにも工場を保有するが、今後はベトナムやインド、タイ、インドネシアなどでの事業を視野に入れる。リサイクルの「プロ集団」として日本はもちろん、アジアのSDGsにも貢献できるのか。約70人の従業員にすぎない中小企業の挑戦が始まっている。(編集協力 P&Rコンサルティング)

【筆者プロフィール】

SACCOの加藤俊社長
SACCOの加藤俊社長

加藤俊

かとう・しゅん(株式会社SACCO社長)

 企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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