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教養・歴史 書評

お金と人生と幸福と 後の世代に贈る最後のメッセージ 評者・黒木亮

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』

著者 山崎元(経済評論家) Gakken 1760円

 やまざき・はじめ
 1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。以後、野村投信、住友生命など12回の転職を経験する。『ほったらかし投資術』など著書多数。今年1月1日に逝去。

 本書の著者、山崎元氏とは少なからず付き合いがあった。金融をテーマに週刊誌で対談したときは、理詰めで究極的な結論を次々と光速でぶつけてくるので、ついて行くのが大変だった。半面、人懐こく、正直で、酒も女性も好きで、シャイなところもあった。評者とは同じ北海道出身で、年も1歳しか違わないので、今年1月に食道がんで永眠したと聞いたときはがく然となった。

 余命3カ月と認識して書かれた本書には、普段見せない心の内が垣間見えて、ああ、彼はこんなふうに考えて生きていたのかと感慨深い。

 たとえば、人の幸福感は100%「自己承認感」(自分が他者から承認されているという感覚)でできているとし、自分の場合は、何か新しい「いいこと」を思いついて、それを人に伝えて感心されたときに幸福であるという。

 なるほど、だから他者にない視点で、経済問題を一刀両断するような評論活動を行っていたのかと気づかされた。大学に入ったばかりの自分の息子と同世代の人々をメインの読者に想定し、主にお金の問題について書かれた本書でも、「個別銘柄の株式、FX、暗号資産のトレーディングは全く勧められない」「最近癌(がん)にかかったが、健康保険に加入していれば、民間のがん保険は不要」「アクティブファンド(プロのファンドマネジャーが運用するファンド)に年率1%(100万円に対して1万円)もの手数料を払うことがどれだけアホかは、考えてみなくても分かる」と快刀乱麻である。

 彼は世の論理的な矛盾には、黙っていられないたちのようだった。あるとき彼の行きつけの神楽坂の和風のバーのママに「山崎さん、最近見ないね」と言ったら、「だってあの人、このお酒の値段の付け方はおかしいとか、仕入れのやり方を変えるべきだとか口出ししてきて、うるさいんだもん」と言うので、苦笑させられた。

 本書の目次に、「『モテ』の秘訣はただ一つ」というのがある。「おや、彼はそんなにモテたように見えなかったが」と思っページを開くと、自分はモテの達人でも上級者でもなく、「以下、仮説に過ぎないが」と断り書きがしてあったので、行儀の良さに微苦笑を禁じ得なかった。しかし、この山崎仮説によるモテのコツは、評者も大いに納得がいった。

 それともう一つ、山崎氏が投資をするならこれ一択とする商品名が本書で明かされている。こちらも大いに納得がいくので、モテのコツとともに本書で確認してほしい。

(黒木亮・作家)


週刊エコノミスト2024年9月24日・10月1日合併号掲載

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』 評者・黒木亮

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