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テクノロジー 最前線! AIの世界

新トレンド「AIエージェント」でカギとなる要素は何か? 長谷佳明

サンフランシスコのセールスフォース本社。AIエージェントに力を入れる Bloomberg
サンフランシスコのセールスフォース本社。AIエージェントに力を入れる Bloomberg

 生成AIブームも少し沈静化と思いきや、最近、AIを活用した新技術として「AIエージェント」という言葉を聞くようになった。

 AIエージェントとは、与えられた目標に従って自律的にタスクを遂行するAIプログラムのことである。この連載では、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の論考などを引用し「『AIエージェント』はアプリのない世界を実現するか」(2024年3月1日掲載)で取り上げた。その時はまだコンセプトに過ぎなかったが、わずか数カ月で早くも現実になり始めている。AI投資の回収が最重要課題といえるベンダーらは“キラーアプリケーション”を求めている。果たして、AIエージェントはキラーアプリになれるのか。

セールスフォースやマイクロソフトが相次いで発表

 セールスフォースは24年9月、AIエージェントの統合パッケージ「Agentforce」を発表した。Agentforceは、セールスフォースをはじめ、IBMなどパートナー企業が開発したAIエージェントが利用できる。セールスフォースの「Atlas推論エンジン」と呼ばれるAIが、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)のデータから次に取るべきアクションを予測し、適切なAIエージェントにタスクを割り当てる。

 それぞれのAIエージェントは、役割や利用可能なデータ、禁止事項など、さながら“業務”が決められており、定義に基づいて自ら考えタスクを遂行する“社員”としてふるまう。先行導入した米国の教育出版Wileyは、AIエージェントにより顧客からの問い合わせに関連するタスクの40%以上を自動化し、繁盛期の人手不足に対応するなど、すでに具体的な成果を出し始めている。

マイクロソフトもAIエージェント開発に注力 Bloomberg
マイクロソフトもAIエージェント開発に注力 Bloomberg

 マイクロソフトは24年10月、同社の業務パッケージ「Dynamics 365」向けに営業管理や財務管理の支援など10種類のAIエージェントの提供を発表。同社のオフィスツール向けのAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」向けにもAIエージェントの開発を可能とする機能を加えた。AIアシスタントは、一つ一つの指示に応じて作業するに過ぎないが、AIエージェントは、与えられた課題に対して自ら計画を立て自己解決する能力を持つ。Copilotも、次を見据えて進化した。

 マイクロソフトの関連会社であるリンクトインも24年10月、採用を支援するAIエージェント「Hiring Assistant」をリリースした。Hiring Assistantは、面接対象者へのスケジュールを調整したり、フォローアップのメッセージのドラフトを作成したりするなど、採用担当者に代わり煩雑な作業をする。

 AIエージェントに関しては、9月以降、さまざまな企業がリリースを出しており、AIエージェントが新たなトレンドになり始めている。

中国では個人向けをすでに実用化

 セールスフォースやマイクロソフトの開発するAIエージェントは「業務用」だが、一般消費者がスマートフォンにインストールして利用する「コンシューマー用」については、中国がすでに実用化している。

 24年9月、アリババドットコムを運営する中国のアリババグループ傘下の金融子会社アントグループは、AIエージェント「支小宝(ジーシャオバオ)」を公開した。

 支小宝は、アントグループの決済アプリ「支付宝(アリペイ)」のプラットフォームに構築されたミニプログラムと連携し、ユーザーの目的に応じて、レストランの予約やタクシーを手配するなど、日常生活の課題を一気通貫で解決する。支小宝の登場により、用途に応じてプログラムを使い分ける時代から、AIエージェントがあらゆるサービスをつかさどる新時代へ進み始めたといえる。ゲイツ氏のAIエージェントによってほとんどのアプリが置き換えられるとの予測は、欧米ではなく、AI実用化に長けた中国でいち早く花開くことになった。

AIエージェントの価値の源泉とは

 では、AIエージェントの勝敗を決するものは何か。生成AIの急激な進化により、AIは私たちの言葉への理解を各段に向上させた。AIエージェントの実用化には、生成AIは欠かすことができないが、今や生成AIのモデルはメタ・プラットフォームズなどが開発するオープンモデルから、オープンAIなどが開発するプロプライエタリモデル(非公開モデル)まで、その気になれば、基盤となる技術は、どの企業も利用できる。本質的にモデルの優劣は、AIエージェントの差別化要因にはならない。

シンガポールでのフィンテック・フェスティバルに参加したアントグループ Bloomberg
シンガポールでのフィンテック・フェスティバルに参加したアントグループ Bloomberg

 一方で、セールスフォースやアントグループの萌芽事例からは、他社の追随を難しくする一手が見えてくる。具体的にはコンテンツとデータである。AIエージェントは、ユーザーの目的を達成するための戦略を考え、そして、戦略をタスクのステップ、つまりはプロセスに落とし込んで遂行する。AIエージェントの優劣を決めるのは、戦略で選択可能なタスク(AIエージェントが代行できること)の多様性である。

 セールスフォースがパッケージとして作り込んできた膨大な業務機能や、アントグループがアリペイの上に築いてきたミニプログラムのエコシステムがAIエージェントにとって他社にないコンテンツとなる。AIエージェントはコンテンツなくして成立せず、既存のコンテンツをいかに生かすかが、AIエージェントの価値を決める。

間違いなく次のブームに

 そして、データとは何か。AIエージェントが、目的に応じて取るべき戦略も、無数の選択肢が考えられる。この選択肢からどの戦略がよいかを決定しなければならない。戦略は、生成AIが思考するとしても、それを定量的に評価するのは、生成AIではなく、データ分析AIである。セールスフォースにとっては、CRMのデータが戦略を評価する上での貴重なデータとなるし、アントグループにとっては、アリペイを通じて蓄積されたユーザーの行動データがある。戦略を生かすも殺すもデータ次第といえる。

 AIエージェントは間違いなく次のブームになる。ただ、まるで空き区画ばかりで残念なショッピングモールのごとく、見栄えが良く形ばかりのAIエージェントも登場するだろう。

 かつて一世を風靡した、AmazonGoのような「レジなし店舗」も、期待していたほど広まっていない。小売業にとって技術導入のコストが課題としてあるものの、他業種から参入したケースでは、肝心の商品の品ぞろえに問題があったり、店舗管理がずさんで商品が売り切れであったりするなど、技術ばかりが目立ち、中身が乏しい状態が散見された。

 AIエージェントの真価を決めるのは技術ではない。コンテンツとデータである。

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