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教養・歴史 書評

少子化を招いた日本の女性労働にまつわる慣行を浮き彫りに 評者・土居丈朗

『日本の女性のキャリア形成と家族 雇用慣行・賃金格差・出産子育て』 

著者 永瀬伸子(お茶の水女子大学基幹研究院教授) 勁草書房 5940円

 ながせ・のぶこ
 上智大学外国語学部を卒業後、民間金融機関に勤務。その後、東京大学経済学部を卒業、同大大学院経済学研究科博士課程修了。専門は労働経済学、社会保障論。共著に『労働経済学をつかむ』など。

 日本の女性労働に関する研究は、近年目覚ましく発展している。それだけ解決すべき課題が多いことと裏表の関係かもしれない。そんな中で、30年余にわたり仕事と家庭を両立させながらこの分野で先駆的な研究を積み重ねてきた著者が、自身の研究を中心に読みやすくまとめたのが本書である。

 本書の魅力の一つは、わが国における女性労働にまつわる慣行が、少子化に結び付いていることを浮き彫りにしたことである。

 これまでの研究では、性別役割分業の慣行が、結婚・出産後の女性の労働に影響(非正規雇用化)を与えるとか、それも一因となって男女間の賃金や昇進の差を生んでいるといった事実が、労働経済学の研究で明らかにされてきた。

 わが国の「専業主婦」世帯の歴史は、意外と浅い。戦前から1970年代までは、有配偶女性は自営業主か家族従業者という働き方が最も多かった。女性の最終学歴もまだ低く、公的年金による保障も薄く、老後を自分の子に扶養されていた時期も長くあった。

 むしろ、米国と異なり日本では80年代から2005年ごろまで出産離職と女性の育児専業化が進んだことを明らかにした研究を紹介している。

 専業主婦世帯を前提として、従業員の雇用安定と賃金の保障と引き換えに、転勤、残業の受け入れと昇進がセットとなった日本的雇用慣行が、子育て抑制的だったと著者はみる。

 1990年代末ごろから、子を持つ母親の非正規雇用での復帰は早まっていると指摘されていた。しかし、著者の研究によると、92年の育児休業法によって、結婚後の就業継続を増やしたが、出産後への有意な影響はなかったという。つまり、結婚後の就業継続と、出産後の就業継続の困難さが、出産のタイミングを遅らせる要因となった。さらに、同時期の未婚期の非正規雇用の拡大も、女性の結婚や出産を遅らせる要因となった。これに、未婚期の親同居は、親の「子どもを結婚させる責任」の消失という規範変化が重なり、結婚を遅らせる要因が加わった。

 近年ではさまざまな制度改正を通じて、第1子出産後の就業継続を増やし、結婚と第1子出産の意欲を大きく上げた。しかし、第2子以降の出産には影響を持たなかったとの研究結果を紹介している。夫の育児家事時間が影響しているという。

 未婚化・少子化という現象は、コロナ禍でさらに深まっており、さらなる研究が待たれる。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載

『日本の女性のキャリア形成と家族 雇用慣行・賃金格差・出産子育て』 評者・土居丈朗

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