「自由な試みこそ発展の柱」として反資本主義の誤りを次々に指摘 評者・原田泰
『資本主義が人類最高の発明である グローバル化と自由市場が私たちを救う理由』
著者 ヨハン・ノルべリ(歴史学者) 訳・解説 山形浩生 ニューズピックス 2475円
Johan Norberg
1973年、スウェーデンのストックホルム生まれ。ストックホルム大学で歴史学の修士号を取得。現在、米ワシントンDC拠点のシンクタンク、ケイトー研究所のシニアフェローを務める。
資本主義は格差を拡大し、社会の紐帯(ちゅうたい)を破壊し、環境を破壊すると言われている。しかし、本書はそのような言説はまったくの誤りとする。
かつては、グローバル資本主義で先進国が貧しい国を搾取すると言われたが、今日では、豊かな国の労働者が貧しい国の製品によって仕事を奪われ搾取されていると指摘される。では、豊かな国はグローバル資本主義によって貧しくなったのだろうか。もちろん、豊かな国は資本主義によって豊かになったのだし、豊かな人がさらに豊かになっていることは誰も否定しないが、取り残された人々がいるというわけだ。著者は、中産階級は消えておらず、上の所得階級に上がっただけだという。上の人々の取り分が増えたと同時に、下の人々の絶対的な所得も増加したというのだ。
また、米国デトロイトの黄金時代という幻想は、彼らが当時のアメリカ人の平均よりもずっと良い賃金を得ていたことから生まれたが、なぜそうなったかといえば、他産業の賃金があまりに低すぎたからだという。つまり、資本主義が成長をもたらし、全米の賃金をかつてのデトロイトの高賃金以上に引き上げたから現在のデトロイトへの失望が生まれたのだと解説する。
そもそもなぜ資本主義が発展をもたらすかといえば、将来、何が成功するかは分からないからだ。人々の自由な試みを許す資本主義こそが発展の柱である。したがって、政府が発展部門に予算を付けるという産業政策は否定される。政府は成功者を選べないからだ。多くの人が信じている軍がインターネットを作ったという説も著者は誤りだという。
本書が根拠のない反資本主義の主張として批判するのは、当然ながら欧米の知識人だ。評者は、日本の知識人は反資本主義的で、政治家は合理的ではないと思っていたが、欧米の知識人こそが反資本主義的で、政治家も生活保護政策等で「年収の壁」を作り、貧しい人々の労働意欲を阻害していると本書で知った。
本書の主張は、私には極めて説得的だが、多くの方は説得されないだろう。しかし、本書に示された事実には着目していただきたい。
ただし、本書は景気変動の過程で生まれるゾンビ企業や銀行の不良債権などに厳しすぎるのではないかとも思った。どのような状況まで考えて景気刺激策に反対しているのか分からないが、それをしないことで生じた1930年代の世界大恐慌こそが反資本主義の風潮を生み出したことを忘れてはならないだろう。
(原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授)
週刊エコノミスト2024年12月3日号掲載
『資本主義が人類最高の発明である グローバル化と自由市場が私たちを救う理由』 評者・原田泰