国際・政治 FOCUS
新トランプ政権人事は忠臣重用と論功行賞 暴走抑止役は不在 今村卓
忠誠への報酬──。トランプ次期米大統領が固めた新政権の主要閣僚の最も明確な特徴だ。
忠臣であれば閣僚候補の適格性など気にしない。女性への性的暴行容疑で捜査を受けていた過去が判明している国防長官のヘグセス氏、反ワクチン活動で知られる厚生長官のロバート・ケネディ・ジュニア氏らの指名が示す。一方、第1次政権と異なり、トランプ氏と接点を欠く共和党主流派の経験豊富な大物や軍高官の登用はない。このタイプの閣僚と対立して主要政策が揺らぎ続けた反省と大統領を1期務めた自信が結びついた判断だろう。
人選には選挙公約を守ろうとする姿勢も表れている。国土安全保障担当の次席補佐官のミラー氏、国境管理の責任者のホーマン氏は、就任初日から大統領令で不法移民の大量強制送還など強硬な移民政策を突き進め、政権運営に弾みをつける狙いが読み取れる。
製造業の国内回帰
ラトニック氏の商務長官への指名、ライトハイザー氏の米通商代表部(USTR)代表への登用の観測は、中国に最大60%、全世界に10~20%という関税引き上げが取引材料ではなく、製造業国内回帰を目指す本気の政策であることを示す。
一方でトランプ氏が米国経済と金融市場の安定を重視していることが、財務長官のベッセント氏の指名から読み取れる。高関税に慎重姿勢をみせ批判も浴びた同氏を選んだのは、公約の減税を具体化して景気と株価を押し上げつつ、インフレを引き起こさずに関税引き上げも実現できる適任者と評価したからだろう。
外交・安全保障の人事では、トランプ氏が選挙戦で掲げた「力による平和」と米国第一主義の擁護者がそろった。対中強硬派のルビオ氏、ウォルツ氏、ヘグセス氏をそれぞれ国務長官、国家安全保障担当の大統領補佐官、国防長官に起用。ウォルツ氏は、停戦を視野に入れたロシアとウクライナの交渉促進などでもトランプ氏と一致している。
トランプ氏が選挙戦で訴えた反ワシントンDC、連邦政府の創造的破壊と改革も、マスク氏とラマスワミ氏を起用した「政府効率化省」に託された。だが年5000億ドル以上の歳出削減という両氏の野心的な構想と与えられた権限の不釣り合いもあり、現実に何ができるのかは不透明である。
トランプ氏の人事は、忠臣・腹心の集中登用、大統領選の論功行賞、公約の順守という点で総じて明確であり、発足時のガバナンスとリーダーシップは1期目よりもはるかに強固でもある。減税と規制緩和を先行させ、移民政策と高関税では着手への強い姿勢を示せば、バイデン政権への不満を募らせた世論の支持を受けて順調に発進できる可能性は十分あるだろう。
しかし公約の高関税、移民政策には悪影響も内包されている。強力な信任を得たと確信するトランプ氏が、報復や連邦政府の破壊で前のめりになる可能性、暴走を抑止するブレーキが政権内部にないことも人事をみれば明らかだ。
(今村卓・丸紅執行役員丸紅経済研究所社長)
週刊エコノミスト2024年12月10・17日合併号掲載
FOCUS トランプ米次期政権人事 一貫して忠臣重用、論功行賞 暴走抑止のブレーキ役は不在=今村卓