小説 高橋是清 第8話 ヴァン・リードのこと=板谷敏彦
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慶応4年=明治元年(1868年)初秋、14歳の是清はサンフランシスコの商店に住み込みで働いていた。客に荷物を配達すると10セントや25セントのチップをもらえるので、奉公していたブラウン家からの餞別(せんべつ)と合わせれば当面の暮らしに不自由はなかった。
この年、幕府軍は年初の鳥羽伏見の戦いに敗れ瓦解(がかい)した。新政府は京都から東征軍を進発、5月には江戸へ入り、西郷隆盛と旧幕府陸軍総裁の勝海舟との間で会談が持たれ、その場で15代将軍徳川慶喜の水戸謹慎と江戸城の無血開城が決められた。
幕府の役所は暫時新政府軍に接収されて行政が混乱し、江戸の旗本御家人の武家屋敷では暇を出されて路頭に迷う者も多かった。
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週刊エコノミスト
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