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Jリーグ 25年目の「革新」 INTERVIEW 村井満 Jリーグ・チェアマン 「Jリーグへの投資価値アピール」

Jリーグの年間総入場者数と主なイベント
Jリーグの年間総入場者数と主なイベント

 25年目を迎えたサッカー、Jリーグが大きく変わろうとしている。元スペイン代表のイニエスタ選手加入など、世界の注目も集める中、Jリーグは世界のサッカーとの距離をどう縮めていくのか。その戦略などを探った。

「イニエスタ加入で世界が注目 Jリーグへの投資価値アピール」

 Jリーグが今、活気にあふれている。成長戦略に取り組む村井満チェアマンを直撃し、その狙いや手ごたえを聞いた。

(聞き手=小島清利・編集部)

 今夏、元スペイン代表のイニエスタ選手がヴィッセル神戸に加入したほか、同じく元スペイン代表のトーレス選手がサガン鳥栖に入団した。昨年、ヴィッセル神戸に入った元ドイツ代表のポドルスキ選手も含め、世界的に活躍した経験を持つ超一流選手が今、Jリーグで雄姿を見せる。2018年シーズンの入場者数は過去最高を記録した17年(1078万9107人)を上回る勢いだ。

 村井満チェアマンは14年1月に就任後、「二つの前提と五つの重要戦略」で構成する成長戦略をまとめた。「育成」と「財政基盤」という二つのベースを前提条件にし、「魅力的なフットボール」「スタジアムを核とした地域再生」「経営人材の育成」「デジタル技術の活用」「国際戦略」を重要戦略に据えている。1993年5月のJリーグ開幕から今年、25年目を迎え、改革が着々と実りつつある。

── 就任当初は入場数の減少が続いていました。改革の手ごたえは。

村井 就任当時はサッカーへの関心度が低下し、クラブも売上高の減少に苦しみ、メディアへの露出が減る、という悪循環に陥っていた。財政的にも困窮していたので、打てる手はそう多くなかった。多くの人に感動を与える魅力的なサッカーをしていくことが再生への近道になると信じて成長戦略をまとめた。

── Jリーグ発足当初は、後に日本代表監督も務めたジーコ氏や、元イングランド代表のリネカー選手など大物選手がプレーし、大きな話題を呼びました。イニエスタ選手の加入はJリーグを再び活気付けたように見えます。

村井 世界最高峰のリーグで活躍したトップ選手が加入したことで、Jリーグのサッカーがより魅力的なものになることが期待できる。サッカーへの関心が高まり、観客が入り、メディアへの露出も増え、クラブの業績も向上するという好循環が生まれることを期待している。

村井満Jリーグ・チェアマン
村井満Jリーグ・チェアマン

外国籍枠の緩和も議論

── Jリーグの成長戦略では、選手育成の重要性を指摘しています。

村井 15年からスタートした日本サッカーの育成面についての改善を進めるために、日本サッカー協会(JFA)とJリーグの協働プログラム(JJP)が始まり、その一環としてドイツが導入していた格付け機関による育成制度の査定システム「フットパス」を活用した。満点が100とすると欧州が80で、日本は40程度のレベルしかなく、育成の課題が浮き彫りになった。

── 今年6~7月のワールドカップ(W杯)ロシア大会の印象は?

村井 世界のサッカーの変化のスピードはものすごく速い。優勝したフランスは19歳のエムバペ選手が活躍するなど、若返りに成功したチームが躍動している。世界の育成がまた一歩先に進んだ印象だ。フランス代表の選手はほとんどがイングランドのプレミアリーグなど最高峰リーグで競い合っている選手たちだった。日本代表もJリーグから多くの選手が選ばれることが重要だと思っていたが、ロシア大会を見てやはり日本選手も海外の激しい競争の中で腕を磨くべきだと方向性を見直した。

 日本選手が海外のレベルの高いリーグで、どこまでやれるかという挑戦を積極的に後押ししたい。Jリーグは選手の海外流出に負けないスピード感で、優秀な選手をどんどん輩出していく。そして、海外で活躍した選手が帰ってきたら、学んだことをJリーグに還元してもらい、国内リーグの活性を狙う。

── Jリーグでは、外国籍枠を緩和すべきとの指摘があります。

村井 外国籍枠の議論はこれから進めるが、それが主たる目的ではない。世界のサッカーには「ホームグローン」という制度があり、ジュニアユース、ユースなどクラブで育てた選手をトップチームにどれだけ引き上げられるかを重要視している。外国籍枠の規制は、間接的に日本選手の活躍の場を保護していた。そうではなく、直接ホームグローンの規制を設け、クラブに育成を一層促すことで、レベルを上げる施策を検討している。その結果として、外国籍枠が一定程度緩和されるかもしれない。

── イニエスタ選手への期待は。

村井 イニエスタ選手は小学生時代から、スペインの強豪バルセロナの育成組織で育った育成世代の象徴だ。彼からも育成についての学びがたくさんあるだろう。また、Jリーグはスペインのラ・リーガ(リーガ・エスパニョーラ)と戦略的連携協定を結んでおり、組織としても、優秀な人材を育成する仕組みを学びたい。

 Jリーグは16年7月、英パフォームグループと17年シーズンから10年間で総額2100億円という巨額の放映権契約を締結した。パフォームが提供するスポーツ専門のストリーミングサービス「DAZN」(ダゾーン)の特徴は、「OTT」(over the top)と呼ばれるインターネット配信だ。明治安田生命J1、J2、J3の全試合をライブで配信し、スマートフォンやタブレットなどでいつでもどこでも視聴が可能になった。

── DAZNのサービスで、Jリーグにどんな変化が起こったのか。

村井 パフォームとの契約で販売したのは、リーグ戦の試合中継を配信する権利であって、映像制作・著作権はJリーグが保有している。これまでは、映像制作や著作権も放送事業者が所有していたが、その頃から動画を自由度高く、機動力を持って活用することの重要性は痛いほど認識していた。今回の契約では年間1000試合超の制作・著作をJリーグが担い、ディレクション(制作指揮)を我々がやっている。

 時間ごとに撮影するランニングオーダー(「香盤表」とも呼ばれる細かなスケジュール)を決めることで、チームバスの到着、監督の試合前コメント、ハーフタイム、ロッカールームの映像などの撮影フォーマットに統一感を持たせた。映像のブランド化は視聴者から好評で、ダゾーンの加入者も17年度は当初の計画を上回る加入数だったと聞いている。今後は欧州主要リーグに匹敵する中継クオリティーを目指す。

Jリーグの年間総入場者数と主なイベント
Jリーグの年間総入場者数と主なイベント

川崎の風呂おけがバカ売れ

── Jリーグのデジタル戦略も進行中です。

村井 五つの重要戦略の一つにデジタル戦略を据えている。54クラブが重複投資をすることを避け、個人データの保護や決済などのEC(電子商取引)のプラットフォームをJリーグが構築した。ファン・サポーターへの情報発信のコンテンツもJリーグが用意し、クラブは簡単に加工するだけでさまざまなコンテンツをファン・サポーターに届けることができるようになった。14年と17年を比較すると、ツイッターのインプレッション数(ツイートが表示された数)は約25倍に拡大した。

── 成果は出始めていますか。

村井 オンデマンドで前回の試合のダイジェストを見て相手の選手の情報を頭に入れながら、スタジアムでライブの試合を観戦し、グッズをECで買うこともできる。例えば、17年のJ1最終節で、優勝した川崎フロンターレの中村憲剛選手が、優勝杯のシャーレ(銀皿)の絵が入った「風呂おけ」を掲げて話題になった(シャーレ本体は同時キックオフの時点で首位だった鹿島アントラーズの試合会場で準備していたため)。この風呂おけをオンラインストアで販売すると、ものすごく売れた。

── スタジアムの観客収容量や機能の向上も課題ではないですか。

村井 経営規模に合わせて、より良いスタジアムに変えていくことは重要な課題。入場者数が天井に達すると、物販、飲食もそれ以上は伸びない。川崎フロンターレはメインスタンドを改築し、入場者数が飛躍的に伸びた。雨天時でも快適に観戦できる屋根の設置や、ショッピングモールの併設など一日中楽しめる工夫をしたり、防災拠点としても活用できるようにすれば、スタジアムが街の発展に貢献する余地も大きい。街とともににぎわいをもたらすという発想で、自治体と協議していきたい。

── Jリーグに投資を呼び込むための魅力をどう高めますか。

村井 国際サッカー連盟(FIFA)加盟国は211カ国で、国連加盟国(193)を上回っている。W杯の視聴者数は10億人を超えるともいわれ、サッカーは世界の共通言語だといえる。イニエスタ選手の来日のニュースは、世界全体のニュースの3位にランクインしていたほどだ。

「タイのメッシ」と呼ばれる北海道コンサドーレ札幌のチャナティップ選手のデビュー戦(17年7月)の動画は、タイ国内で350万人が視聴した。Jリーグには我々の想像を超えるポテンシャルがあり、アジアに展開しようとする企業にとって投資価値は高い。また、各地のクラブには地域の公共財的な役割としてのローカルな魅力もある。Jリーグへの投資価値を今後も、世界にアピールしていく。


「世界から選手育成術を学びたい」と語る村井満・Jリーグ・チェアマン
「世界から選手育成術を学びたい」と語る村井満・Jリーグ・チェアマン

 ■人物略歴

むらい・みつる

 1959年、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。2008年からJリーグ理事を務め、14年1月に第5代チェアマンに就任。59歳。

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