会社を買う売る継ぐ スモールM&A 個人商店から会社組織に磨く オリックスの「買い方」を学ぶ=黒崎亜弓
後継者不在の会社をいったん買収し、適切な引き継ぎ先に売却する──。こんな事業承継ファンドが続々と登場している。融資先を対象とする地域金融機関が設立の中心となっているが、プレーヤーは多様化し、より小規模な企業にも対象が広がりを見せる。
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会計ソフト大手の弥生やヘアカットのQBハウスを運営するキュービーネットホールディングスなど売買価格が100億円超規模のM&A(企業の合併・買収)を手がけてきたオリックスが、年商数億円規模の製造業をはじめとする中小企業の買収に乗り出した。今秋に第1号案件をまとめる見通しで、年数件から増やしていく。
積極的な投資姿勢の同社だが、この取り組みでは「大きくもうけようとはしていない」と同社事業法人営業第一部の関根貴紀第三チーム長は話す。同社はリースはじめ金融サービスの営業拠点を全国に持ち、中小企業は顧客の中心。彼らの切実なニーズに応えるとともに、顧客基盤を維持する狙いがある。
いわば“事業承継ファンド”だが「事業会社である当社は仲介役ともファンドとも立ち位置が違う」と関根チーム長。売買先は自社のネットワークで発掘し、社員を経営幹部として送り込んで体制を整える。
成長を目指さず改善
中小企業は、コンプライアンス(法令順守)面で課題が多い。就業規則すらなく、サービス残業が蔓延(まんえん)しているといった労務面をはじめ、大企業では当たり前の管理にコストを投じていない。それらは、子や従業員に承継をためらわせるリスクとなるうえ、M&Aでもネックとなる。
コンプライアンス面を整えれば、コストは増すが、過大な役員報酬や経費支出は削減するなどして利益を維持する。「要は、個人商店から会社組織に変えるということだ」と第三チームの丸山大輔課長。そのように体制整備を担うプレーヤーは、中小企業同士で事業承継M&Aが活性化する現状ではみあたらず、今後、M&Aマーケットが成熟していく上で不可欠とみる。
コンプライアンスの整備と同時に重視するのが、強みの維持だ。強みといっても、何も独自の技術や商品、サービスを指すわけではない。
「買収先にそのようなものは求めていない。中小企業は代替可能だからこそ中小にとどまっているが、それでも生き残ってきたのには理由がある」(丸山課長)
たとえば仕事が丁寧だったり、対応が早かったりという点が評価され、受注が続いていたりする。急速な成長を図れば、このような風土は損なわれかねないため、売り上げは現状維持を基本とする。
引き継ぎ先としては、地域の中堅企業のほか、従業員からの後継者育成を想定している。コンプライアンス上の問題が解消されれば、これまで中小企業の買収に手を出しづらかった企業も候補となってくる。
また、従業員も、ワンマン経営者と同様のかじ取りはできなくても、体制の整った会社ならば、意思決定を担うハードルが下がるというわけだ。
事業承継マーケットが拡大するなか、今後は、各プレーヤーがどんな価値を提供できるかが問われてくるだろう。
(黒崎亜弓・編集部)