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GAFAの次、WeWork上陸の衝撃 オフィスばかりか企業を変える=佐久間誠

東京・ギンザシックスのWeWorkの拠点(同社提供)
東京・ギンザシックスのWeWorkの拠点(同社提供)

 コワーキングスペースが世界的なトレンドになっている。デスクや会議室、ネット環境などを備え、月単位で利用できる共用オフィスのことである。独統計調査会社Statista(スタティスタ)によれば、世界のコワーキングスペース数は2010年の600から17年には1万5500と急増している。

 この潮流を牽引(けんいん)しているのが、米大手のWeWork(ウィーワーク)である。同社は10年に設立された新興企業だが、すでに世界23カ国77都市で287拠点を展開し、26万8000人が利用する(18年6月時点)。18年1~6月の売上高は7・6億ドル(840億円)と、ここ数年は倍々ペースで成長している。

 日本でも昨年、ソフトバンクグループが、10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドと共同で、WeWorkグループに44億ドル(4800億円)出資し、大きく報じられた。WeWorkとソフトバンクグループは折半で日本法人を設立し、今年2月に最初の拠点を東京・六本木に開設。現在は東京で6拠点を運営しており、年内に東京にもう1拠点、また横浜、福岡、大阪にも進出し、合計10拠点となる予定だ。

 主要都市の拠点数を開業予定も含めて比較すると、東京はまだまだ少なく、米英での展開が先行している(図1)。ロンドンでは最大、ニューヨークのマンハッタンでは2番目に多くのオフィス床を借りる賃借人となっている。

 

WeWorkl拠点数の上位20都市(筆者作成)
WeWorkl拠点数の上位20都市(筆者作成)

WeWorkが急成長しているのはなぜか。

 コワーキングスペースというビジネス自体に目新しさはない。オフィスの床を借り、小分けにして貸し出すことでさやをとる。欧米だけでなく日本でも既に多く存在する。その伝統的なビジネスにWeWorkは新風を吹き込み、オフィスのあり方に変革をもたらそうとしている。IT(情報技術)の世界では人・モノ・カネ・情報などを結びつける機能をプラットフォームと呼ぶが、WeWorkはコワーキングスペースに、利用会員をビジネスの面で結びつけるプラットフォームとしての機能を追加したのだ。

交流だけでなく取引を促進

 各拠点に会員間をつなげる役割を果たすコミュニティー・マネジャーと呼ばれる社員が配置され、イベントを開催するなどリアルな出会いを取り持つ。ハード面でもデータをもとに通路の広さを会員が交流しやすいよう設計するなど、交流を促進するようデザインされている。

 リアルだけでなく、オンライン上でも、利用会員にSNS(交流サイト)アプリを提供しており、全ての拠点の利用会員とつながることができる。質問や要望を投稿すると、世界中から回答が寄せられることもある。

 人的ネットワークが構築されることで、会員間の交流を図れるばかりか、会員間の取引を活性化することができる。米国ではWeWorkの会員間で転職する事例もあるそうだ。コワーキングスペース内でさまざまなコラボレーションが生まれ、新たなビジネスを創出することも期待される。

 加えて、業務のアウトソーシングの促進を、スマートフォンのアプリストアのような形でも行っている。100以上の企業が会員向けに、ソフトやデータをオンライン上で利用できるクラウドサービスや、営業・マーケティング、決済、法律、宅配など、250以上のサービスを提供しており、会員はビジネスに必要なものの多くを調達することができる。スタートアップやフリーランスなどが、従来享受することができなかった大企業向けのサービスを、割引価格で受けることもできる。

 WeWorkを通じてサービスを提供する企業にとっては、有望なスタートアップなどと早期からコンタクトを持ち、顧客として囲い込むことが可能になる。

WeWork経済圏

 今後、WeWorkのビジネス・プラットフォームが拡大していけば、事業を運営する上で必要なものは全てまかなうことができるようになる可能性がある(図2)。得意分野に特化して、それ以外のことはアウトソースすればいいのだ。そうすれば、もうかるし、人生も楽しくなる、というのがWeWorkの提示する価値観「Do What You Love(好きなことをやろう)」だ。

 

図2 プラットフォームとしてのWeWork(筆者作成)
図2 プラットフォームとしてのWeWork(筆者作成)

また同社のビジネス・プラットフォーム上では、業務をアウトソースするだけでなく、サービスを他者に提供することもできる。従来、コワーキングスペースの会員は、オフィス空間を利用する消費者に過ぎなかったが、WeWorkでは同時に、サービス提供者ともなりうる。

 これまで企業は、ビジネスに必要な機能を会社内で抱え込んできた。しかし、WeWorkのビジネス・プラットフォームが拡大し、この中でアウトソースできるようになれば、企業が多くの機能を抱える必要はない。また特定のオフィスに集まり、まとまって働く必要もない。将来的に、会社が機能ごとに分化し、WeWorkというプラットフォームを中心に結びついた巨大なエコシステム(生態系)を形成するとも考えられる。これは「WeWork経済圏」と言えるものだ。

 世界を席巻する巨大IT企業は、GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)はじめプラットフォームを握っている。世界の上場企業の時価総額ランキングを見ると、上位10社のうち7社がプラットフォーマーだ。

 WeWorkはプラットフォーマーとして、GAFAに次ぐ存在に成長すると期待されている。そのため、同社は未上場ながらも、企業価値は200億ドル(2・2兆円)と高く評価されている。日本の大手不動産会社の時価総額と比較しても、住友不動産(1・9兆円)を上回り、三菱地所(2・7兆円)、三井不動産(2・6兆円)に迫る規模である。

 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、WeWorkを「次の中国アリババ集団になるのではと期待している」と述べ、今年に入り転換社債を通して10億ドル(1100億円)を追加投資するほどの肩の入れようだ。

差別化する三井不動産

 WeWork上陸を機に、東京でもコワーキングスペースが急速に拡大している。不動産会社や電鉄会社を中心に相次いで参入しているが、その中でも特に積極的でWeWorkとの差別化を図っているのが三井不動産である。コワーキングスペース「WORK(ワーク) STYLING(スタイリング)」を17年4月から展開する。同社はオフィスビルを多く所有するにもかかわらず、他社が所有するビルも借りて設置するなど、精力的に拡大し、全国で30超の拠点を構える。

 WeWorkと比較した場合、グローバルな人的ネットワークという点では劣るが、コワーキングスペースの弱点でもあるプライバシーやセキュリティーという点では優れている。情報漏えいなどを懸念する企業にとっては有力な選択肢となるだろう。働き方改革のなかで促進されているリモートワークの拠点としての位置づけだ。高付加価値路線なのはWeWorkと同じだが、WeWorkが月単位の契約を基本とし、共用スペースの利用だけでも1人月額5万5000~10万1000円かかるのに対し、1人当たり10分300円から利用できる手軽さがある。

 コワーキングスペース拡大の影響は、東京のオフィス市場で顕在化し始めている。現在は、既存のオフィスを維持しつつ、コワーキングスペースを追加的に契約する企業が多いため、短期的にはオフィス需要を押し上げている。総合不動産サービス会社JLLによれば、18年の東京都心5区におけるオフィスの新規契約面積の34%をコワーキングスペースが占めるなど、存在感を増している。

 今のところビルオーナーにとって、WeWorkは高騰する賃料も負担できる優良なテナントと認識されている。しかし、コワーキングスペースは従来のオフィスと比較して1人当たりの賃借面積が小さい。そのため、企業が自前でオフィスを構えるより、コワーキングスペースを利用した方が社員1人当たりのコストが安いとされる。今後は、コワーキングスペースを利用する代わりに、本社の賃借面積を縮小する動きも想定され、長期的にはオフィス需要を下押しする可能性がある。

大企業向けにシフト

 今後も、WeWorkの成長は続くのだろうか。

 まだ景気悪化の試練を経験しておらず、将来性を疑問視する見方もある。コワーキングスペースは基本的には、長期で借りて、短期で貸し出すビジネスモデルで、景気に左右されやすいからだ。スタートアップやフリーランスなど資金力に劣る会員が多ければ、なおさら脆弱(ぜいじゃく)になる。

 WeWorkはじめ、コワーキングスペースが世界的に拡大している背景には、近年のスタートアップの隆盛がある。事業の浮き沈みが激しく、1年先を予想するのも難しい。米国などではオフィスの賃貸期間が3~10年と長期に及び、中途解約できないケースも多く、一般的なオフィスを賃借するのは難しいためだ。

 また、「ギグエコノミー」の拡大もコワーキングスペースの普及を後押ししている。ギグエコノミーとは、フリーランスなどが、単発または短期の仕事をインターネットを介して請け負う働き方である。米マッキンゼーの調査によれば、欧米の労働人口に占めるギグワーカーの割合は20~30%と増加している。

 米国を中心にスタートアップやフリーランスが増加し、その受け皿としてコワーキングスペースは拡大してきた。WeWorkも当初は、会員のほとんどがスタートアップやフリーランスなどだったが、この1~2年で大企業の会員が増加し、現在は全体の25%を占めるに至っている。2年後には、大企業の割合を50%まで拡大する目標だ。

 大企業はWeWorkを利用する理由として、スタートアップやフリーランスとの協業や、最新のトレンドへのキャッチアップなどを挙げており、オープンイノベーションの場として活用しようとしている。

 最近では、企業の一部社員が利用する形ではなく、自社仕様のオフィスを提供してほしいというニーズも高まっている。ソフトバンクの孫氏も冗談交じりではあるが、本社をWeWorkに全部移転しようかと議論していると述べている。

 WeWorkが17年に開始した「Powered by We」は、そうしたニーズに応えるサービスだ。同社がコワーキングスペースの運営で培ったデータやノウハウを活用して、企業のためにオフィスの選定から内装、運営・管理などを行い、オフィス空間をサービスとして提供するものである。企業が自前で行うことの多かったオフィス環境の整備を丸ごとアウトソースできる。WeWorkがコミュニティー・マネジャーを派遣して、社内外の人材交流も図るなどのサービスも提供される。米国では既に、金融、保険、通信、小売りなど幅広い業種の30社が利用している。

 18年8月からは、賃料負担力の劣る中小企業向けに廉価版「HQ by WeWork」も開始した。一部の設備やサービスを省き、必要に応じて追加できるようにしたものだ。

 従来、コワーキングスペースを利用するスタートアップは、事業が拡大すると退去し、オフィスを賃借することが多かった。しかし、WeWorkは「Powered by We」「HQ by WeWork」によって、企業が成長した後も「WeWork経済圏」につなぎとめることを可能にした。

 これらのサービスは、もはやコワーキングスペースではなく、新しいオフィスのあり方である。WeWorkの台頭は、デジタル化がもたらした構造変化の波が確実に不動産業にも押し寄せていることを示している。他の産業と同様、不動産業もビジネスモデルの再考を迫られる。

(佐久間誠・ニッセイ基礎研究所金融研究部准主任研究員)

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