中国の民間債務は危険水準=市岡繁男
中国の債務残高が急激に増加し、直近では米国とほぼ並んでいる。図1は、国際決済銀行(BIS)の統計(直近データは2018年1~3月)から、日本、米国、ユーロ圏、中国の民間債務残高(家計+非金融企業)の推移をみたものだ。
これを見ると、中国の債務の増加ピッチは06年からの12年間で年率21%増と凄まじい。一昨年は前年比5%と増加ペースが鈍ったが、今年1~3月期は24%増と再び勢いが増している。これは窮地に陥った企業に対する追い貸しではないか、という見方もある。
日本もバブル崩壊後の数年間は銀行貸出が増えていたが、中国でも同じ現象が起きている可能性がある。 米国もリーマン・ショック以降、民間債務残高が4.6兆ドル増加しており、このうち3.8兆ドルは事業会社によるものだ。これは企業が自社株買いを目的に社債を発行した側面が大きい。米連邦準備制度理事会(FRB)の資金循環統計によると、社債発行残高はこの間に2.5兆ドル増加している。
一方で日本の債務残高は大きく減少している。日本の民間債務のピークは1995年4~6月期の12.8兆ドル。90年のバブル崩壊後も債務が増え続けたのは、不良債権の顕在化を避けるべく、銀行が危ない企業に追い貸しを行ったからである。だが、97~98年の金融危機時には一転して貸し剥がしが横行し、それに懲りた事業会社は以後、債務を減らす経営に徹した。08年のリーマン・ショック後はその傾向が一層強まり、直近は8.1兆ドルと95年の3分の2の水準に止まっている。また日本ほどではないが、ユーロ圏でも民間債務の残高が増えていない。この4カ国(地域)で世界の債務総額(119.4兆ドル)の約75%を占めるが、債務の増減額に大きな違いがあることが分かるだろう。
民間の利払い負担はリーマン並み
では、いまのように金利が上昇し始めると、どのような影響があるだろうか。
債務が増加している米国と中国の民間債務(事業会社と家計の合計)の「推定利払い額÷名目GDP」を図2で対比した。試算方法は「民間債務残高×各国10年国債の期末利回り÷名目GDP」で、2018年4~6月期と7~9月期は筆者が推計した。
これを見ると、中国の「利払い額÷名目GDP」は現在7.9%で、2000年の米ITバブル崩壊(8.2%)、08年のリーマン・ショック(8.1%)と並ぶ水準にあることがわかる。どこの国であれ、貸し出しや社債の利回りは国債の利回りを上回るものだ。ましてや中国の場合、GDPは水増しされているという見方が有力だ。
だとすると、中国民間部門の資金繰りは、米国の過去2回の金融危機以上に深刻な状況にあるのでないか。先月はアパレル販売の上場企業、新光控股集団が社債の元利払いが出来ずに債務不履行に陥った。米中貿易戦争の影響だけでも大変なのに、米国発の金利上昇が波及するようなら、破たんする企業が続出するだろう。
中国は経常黒字国なのでトルコや中南米諸国とは違って、海外からの借り入れのウエートは小さい。だが、そうは言っても海外から調達した債務は約2兆ドルもある(居住者による外債発行残高、海外での起債残高、外国銀行からの借り入れの合計)。それだけに、いざという場合には国際金融市場を揺るがすほどの影響が生じる可能性があろう。
(市岡繁男・相場研究家)