小説 高橋是清 第14話 唐津へ=板谷敏彦
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芸者遊びにのめりこみ評判を落とした是清は、恩師フルベッキのもとを離れ、大学南校語学教師の職も捨て、日本橋芸妓桝吉の家に転がり込み、ヒモ同然の生活を続けているが……。
明治4(1871)年の初夏、この日、箱持ちの是清が愛人の芸妓桝吉(ますきち)を迎えに行った先は桶町(おけまち)千葉道場の宴席だった。東屋(あずまや)のちょうちんをひっさげて、宴もたけなわと知りつつ、むしろそれを狙ったタイミングで桝吉をもらい受けた。宴席は思惑通りに白けたらしく、2階の座敷が突然静かになる。是清はこんなことで憂さを晴らしていた。
客の一団が降りてくる気配がした。中に顔見知りもいたので、是清は近くの別の店の軒下に避けていたが、めざとい道場の門人に見つかってしまった。
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週刊エコノミスト
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