週刊エコノミスト Online挑戦者2018

適正な対価で生産者の生活向上 丸山健太郎 丸山珈琲代表 

丸山健太郎 丸山珈琲代表(撮影=武市公孝)
丸山健太郎 丸山珈琲代表(撮影=武市公孝)

 1年の多くを海外で過ごし、良質のコーヒー豆を直接買い付ける。豆の品質にこだわり産地の特性を大事にするスペシャルティコーヒーという新しい分野を切り開いてきた。1杯800円のコーヒーで生産者の思いを届ける。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長)

(構成=下桐実雅子・編集部)

 1991年に軽井沢で創業しましたが、90年代はスターバックスなどのチェーン店が入り始めて、喫茶店というビジネスモデルが行き詰まっていた。ネットでスペシャルティコーヒーという言葉を見つけて、米国で盛り上がりつつあるのを知ったのは2000年。日本にもいずれ来るなと思いました。

販売する豆には生産者も紹介されている
販売する豆には生産者も紹介されている

生産地で価値観が転換

 生産地を訪れると、自分の中で、価値観の大転換が起きました。農園に立つと足元の土や空気など、五感から土地の特性が感じられます。この生産者ならではの味、土地の味を紹介したいと思いました。豆の風味や特性は酸味にあります。一般的に深煎りだと、苦みなどで豆の個性がなくなるので、バイヤーたちが浅煎りにしていく流れがありました。

 私も06年ごろから焙煎(ばいせん)を浅くし始めたら、お客さんから「味がない」と言われた。それまでのコーヒーと違ったからです。私も頑固なので、ブレずに筋を通した。そのうち皆が飲み慣れてきて、新しいお客さんも増えた。

 日本を代表するブランドになろうと思っていた。それには、まずは東京にと、ひっそりと世田谷区尾山台に進出しました。その後、港区西麻布にも出店しましたが、最初の1年間は、お客さんが全然来なくて、本当に胃が痛かった。ちょっとおいしいぐらいでは誰も相手にしてくれない。そのうち、近くの幼稚園のお母さんたちが来てくれるようになった。そこから家族や友達に広がって、軌道に乗ってきた。豆の卸売りも順調に伸びていきました。

 私は少し変わった子どもで、自分の内面や心理学に興味があった。進学校の高校に入ったものの、高校を出たら世捨て人になりたくて、バイトでお金をためてはインドやアメリカを放浪した。英語はできたから、通訳か翻訳で食べていこうと勉強していたとき、近所のスーパーでコーヒー豆のすばらしい香りに出会った。ふと、コーヒー屋もいいかなと。バレエを教えて生計を支えていた妻に相談したら、賛成してくれた。凝り性なので、コーヒーを極めようと自家焙煎を始めました。

オークションで買い始める

 最初はいい生産者がどこにいるかわからず、生産国で開かれる国際品評会後のオークションで買い始めました。01年、銀行に借り入れして、他の店と共同落札したのが最初。02年にはブラジルの品評会で1位の豆を当時の史上最高価格で落札して騒がれました。今は、自分で言うのもなんですが、私に買ってほしい生産者は多いと思う。中長期で買ってくれる、いいバイヤーがほしいですから。それまで彼らは農協に納めるしかなかった。

 中米のホンジュラスの品評会でトップ10に入る生産者の家に行きましたが、かろうじて床はあるけれど、トイレもない。国の主要産品のトップレベルの生産者がこういう生活をしているのは、あまりにもフェアじゃない。別の生産者は18歳で初めて靴を買ったという。これが僕の原点ですね。

 高品質の豆に正当な対価を払うと、彼らの生活はみるみる良くなります。それは最高の喜びです。


企業概要

事業内容:コーヒー豆の販売、卸売り、喫茶店営業

本社所在地:長野県軽井沢町

設立:1991年

資本金:1300万円

従業員数:163人(2018年9月1日現在)


 ■人物略歴

まるやま・けんたろう

 1968年神奈川県生まれ。同県立平塚江南高校卒業後、1991年、長野県軽井沢で丸山珈琲を創業。最高品質のコーヒー豆を決める品評会「カップ・オブ・エクセレンス」に国際審査員として世界で最も多く参加している。18年7月には、コスタリカの品評会で優勝した生産者のコーヒーを史上最高価格(1キロ約7万3000円、総額約1750万円)で共同落札した。長野県や東京などに11店舗を構える。50歳。

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