アフリカで燃料から電子マネーまで 日本植物燃料 合田真社長
モザンビークで、電子マネーを使った金融の仕組み作りに奮闘している。目標は銀行の設立。日本とアフリカ大陸を行き来する日々が続く。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長)
(構成=花谷美枝・編集部)
社名の通り、液体バイオ燃料を作って、モザンビークの電気が通じていない地域で村づくりに参加しています。バイオディーゼルというと、ナタネやトウモロコシなどを大規模農場で栽培するイメージがあるかもしれませんが、私たちが行うのは地産地消型の小規模モデルです。
ヤトロファという樹木の苗を農家に無料で提供し、畑の垣根として植えてもらいます。実を採取できたら私たちで買い取り、搾油してバイオディーゼルを作ります。
無電化地帯に電気を
作った燃料は、主にトウモロコシの製粉所などに宅配しています。しかし、電化されてない地域の一般家庭には家電製品があまり普及していないので、充電式のランタンを貸し出したり、冷蔵庫で冷やした飲み物を販売したりするキオスクを運営しています。
ところがこのキオスク、お金の管理が難しく、売り上げの3割近くが行方不明になることも。店番に事情を聴いても、「妖精が持って行った」などと言われる始末で、現金の取り扱いそのものが難しいんです。約束や時間についての観念とか、文化的背景が全然違うので、日本の価値観を押し付けてもうまくいきません。それを仕組みで解決しようと、NECにシステムを提供してもらって電子マネーを導入しました。
キオスクのお客さんにICカードを配布し、現金をチャージしてもらい、お店に置いたタブレット端末にICカードをタッチすると決済が完了します。店員の教育には時間がかかりましたが、このタブレットにはPOS(販売時点情報管理)の機能もあるので、お金や商品の管理がしやすくなりました。
電子版農協に取り組む
電子マネーを導入してわかったことは、預金のニーズです。
お店で使う金額は通常、1人月5000円程度ですが、40万~50万円くらいチャージする人が出てきました。モザンビークの平均的な年収に匹敵する金額です。無電化地域にはたいてい銀行がないので、地面に穴を掘って埋めたり、常時身に着けたりしておカネを管理していたのですが、大雨でお金が流されてしまったり、盗難に遭ったり、みんな苦労していました。だから、電子マネーが疑似預金の役割を果たすことになったのです。
もう一つ、大きな変化がありました。電子マネー決済を通じて取引データを残せるようになったことで、信用供与ができるようになったことです。例えば、泥棒が倉庫に入り、在庫と現金を盗まれた農家がありましたが、キオスクでの農業資材の購入履歴から、その人の事業規模や仕入れペースを把握できたので、当面の運転資金を融資できました。電子マネーによって金融サービスの礎になる信用情報を蓄積できるようになったわけです。
現在は、この仕組みを発展させて、国際機関と農業のバリューチェーンの電子化に取り組んでいます。いわば農協の電子版です。将来的にはモザンビークで銀行の設立を目指します。一つ一つの村が自立できるような形の金融を、アフリカから考えていきます。
企業概要
事業内容:植物油の研究開発・販売、エネルギー作物の搾油精製事業など
本社所在地:神奈川県小田原市
設立:2000年1月
資本金:約2億4000万円
従業員数:日本人10人、アフリカ現地スタッフ30人(18年10月現在)
■人物略歴
ごうだ・まこと
1975年長崎県生まれ。私立青雲高校卒業、京都大学法学部中退。商品先物取引の会社で営業を経験した後、ベンチャー企業の経営に携わる。2000年に日本植物燃料設立。燃料となるヤトロファの品種改良に取り組み、アフリカのモザンビークに拠点を拡大、12年に現地法人を設立。43歳。