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諸藤貴志 アグリメディア社長 都市近郊の遊休地を市民農園に

諸藤貴志 アグリメディア社長(撮影=武市公孝)
諸藤貴志 アグリメディア社長(撮影=武市公孝)

 都市近郊の遊休農地を、サポート付きの市民農園として貸し出す「シェア畑」で急成長してきた。農家と都市住民をつないで「もうかる農業」を実現し、就農者を増やして農業の底上げを目指す。

(聞き手=岡田英・編集部)

 起業を志したきっかけは、大学卒業後に入社した住友不動産で、貸し会議室の事業立ち上げを任され、収益が面白いように上がったことでした。30歳のとき、自分でビジネスを始める決意をし、「勝てる事業」を探しました。担い手不足など課題が多く、今後の変化が大きそうな農業にチャンスがあると考え、2011年に地元・福岡県で農家をしていた同級生と一緒に創業しました。

「シェア畑」に併設されたビニールハウスには、スコップなどの農具がそろう(杉並区浜田山で)
「シェア畑」に併設されたビニールハウスには、スコップなどの農具がそろう(杉並区浜田山で)

農家回り300軒

 まずは現場を知ろうと、関東近郊を中心に約300軒の農家を回りました。すると、高齢化や人手不足で遊休農地や耕作放棄地が増えている問題に行き当たりました。都市近郊のこうした土地を借り、都市住民に貸し出すのが「シェア畑」です。

 事前の市場調査で、野菜作りに興味をもっているのにやらない理由は「道具をそろえるのが大変そう」「やり方が分からない」といったものでした。それならばと農具や肥料、苗など必要なものはすべてこちらでそろえ、野菜作りに習熟したアドバイザーを置きました。

 12年から埼玉県川越市や横浜市で始めたところ、特に横浜では用意したスタッフで対応しきれないほどの利用者が集まり、野菜作りのニーズはこんなにあるんだと手応えを感じました。

 1区画の広さは3平方メートルから。利用料は月額3982円(税別)からで、広さや場所によって設定しています。自治体が運営する市民農園よりも高い価格帯ですが、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫の6都府県で約80カ所に広がり、利用者は約2万人になりました。あと2年で200カ所に増やしたいです。

 農地を貸したいという相談も、全国各地から毎月約200件来ています。「農地を相続するが、自分は農業はできないから活用してほしい」といった相談が多いです。今年9月に、生産緑地を貸し借りしやすくする都市農地貸借円滑化法が施行され、相続税の納税猶予などの優遇措置を受けながら貸し農園を開設できるようになり、特に相談が増えています。

農業所得を1.5倍に

 ただし、都心から離れた農地は集客が難しく、シェア畑ができるエリアは限られます。地方の遊休農地については、人材や農業法人とのマッチングで担い手不足の課題を解決して生産性を上げられないか。そう考え、農家と働き手をつなぐ求人サイト「あぐりナビ」も運営しています。

 人材と並ぶ課題は、販路です。農産物は直売所で消費者に直接売れば、通常の集団出荷より得られる利益は多くなりますが、個人では販路の確保が難しい。そこで、うちが都市部の住民・企業に販売代行するような形で売ることで、農家の手取り収入が増えるようなビジネスができないか模索しています。

 もうかる農家が増えれば参入者も増え、良い農業につながります。目標は「2024年の日本の農業所得が15年比で1.5倍」に当社が大きく貢献することです。実現するには複数の事業を展開し、新しいサービスにどんどんチャレンジしていかなければいけないと思っています。


企業概要

事業内容:市民農園、農業特化型求人広告サイトの運営など

本社所在地:東京都新宿区

設立:2011年4月

資本金:7億250万円(資本準備金含む)

従業員数:345人(18年7月1日現在)


 ■人物略歴

もろふじ・たかし

 1979年福岡県生まれ。同県立明善高校卒業。2003年、九州大学経済学部を卒業し、住友不動産に入社。貸し会議室やイベントホールのレンタル事業、都心の再開発事業に携わる。11年4月に高校の同級生と2人で「アグリメディア」を創業。39歳。

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