イラン制裁で顕在化 揺らぐ基軸通貨の地位=大堀達也/岡田英 新冷戦とドル・原油・金
米トランプ政権は11月5日、対イラン制裁の第2弾を発動した。イラン経済を支える原油を制裁対象に加え、各国にイラン産原油の輸入停止を求めた。さらに米政府が制裁の切り札にしたのが、世界の基軸通貨である米「ドル」だ。特集「新冷戦とドル・原油・金」
米政府は国際的な銀行間の送金インフラを提供する「国際銀行間通信協会」(SWIFT(スイフト)=関連記事)に対しイランの銀行をネットワークから切断するよう圧力をかけた。SWIFTは5日、複数の銀行を切断すると発表。対象銀行は非公表だが、第1弾で指定した50行を含むと見られる。特に支払いがドルで行われる原油取引には打撃だ。「決済通貨がドルである以上、イランを含む産油国は米国の制裁から逃れられない」(国際送金のシステムに詳しい中島真志・麗澤大教授)。
だが、ドルは米国にとって「諸(もろ)刃の剣」。一連の制裁がイラン産原油の輸入国の「ドル離れ」を引き起こしているのだ。イラン制裁に従わないと表明した中国は人民元建て輸入を続け、インドも“包括的アプローチ”としてドル以外の通貨での支払いをにおわせた。
原油輸出国のインドネシアも、制裁リスクのあるドルから人民元へ決済通貨の一部切り替えを検討する。また、同じ理由で金準備も増やしている。米国の量的緩和政策でばらまかれたドルを売り、金を買い増す動きは多くの新興国に共通する動きだ。
こうした「ドル離れ」は、実は長期で見れば徐々に進行していたと言えるだろう。主要6通貨に対するドルの総合的な価値を示す「ドル指数」を見ると、足元では上昇に転じてはいるものの、ドルの価値を大幅に切り下げた「プラザ合意」の1985年以降、ドル指数は趨勢(すうせい)的に低下を続けている(図)。これは、「超大国」としての米国の地位が徐々に低下してきていることと整合する。
国際通貨基金(IMF)によると、85年には世界の名目GDP(国内総生産)シェアで35%を占めていた米国だが、2017年には24%に低下した。一方、00年代には中国が高成長を遂げ、中国の世界GDPシェアは85年当時、わずか数%だったのが、17年は米国に次ぎ15%を占めるまでになった。中国のGDPは30~40年代には米国を抜くとの推計もある。
ドルの価値低下に伴って上昇しているのが原油と金の価格だ。図では原油・金のドル建て価格の水準が低い時期からの傾向をつかみやすいよう、自然対数(e)でドル建て価格を対数表示しているが、いずれも長期で見れば上昇傾向が見られる。
イラン制裁に端的に現れた基軸通貨ドルの価値を武器とするトランプ政権の姿勢は、それでもなお世界の中心で居続けようと影響力を行使しているように見える。米中貿易戦争がエスカレートするさなかの10月4日、ペンス米副大統領は中国を「米国に挑戦する国」と名指しで批判し、米メディアは「新冷戦」と騒ぎ立てた。しかし、新冷戦における米国の旗色は急速に悪化している。
(大堀達也/岡田英・編集部)