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人間力問われる建て替え・再開発で勝負 野村均 東京建物社長 編集長インタビュー/933

野村 均 東京建物社長
野村 均 東京建物社長

人間力問われる建て替え・再開発で勝負

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 写真を撮影した本社社屋は東京駅前の一等地にあります。この東京駅前八重洲地区で大規模な再開発の計画を進めています。

野村 八重洲一丁目東地区の計画は2020年以降に着工する予定で、この本社ビルも建て替えることになります。24年以降に地上54階建ての超高層複合ビルを完成させる計画です。ここはもともと、飲食店など商売を営む地権者が多いエリア。再開発後にできるビルも、昔ながらの町人の町としての雰囲気を感じられるようなしつらえを考えているので、丸の内や大手町とはひと味違ったものになると思います。

── とはいえ、計画地の南側の別の再開発プロジェクトは、すでに更地になっています。東京建物側は計画が遅れているのでは。

野村 多くの地権者が関わる複雑な権利関係のプロジェクトではありますが、再開発組合の成立に向けて順調に進んでいます。当社も地権者の一社として参加し、他の地権者と日ごろからコミュニケーションをはかっています。

── 池袋駅の近くでも大型再開発を進めていますね。

野村 豊島区庁舎跡地で進める「豊島プロジェクト(仮称)」は地上33階建てのオフィスビルが20年に完成する予定です。またそれに先行して19年秋には新ホールが開業します。すでにオフィスの入居者募集を始めていますが、とても順調です。募集賃料は坪単価3万円前後で、池袋周辺の新築の大型オフィスビルは希少ということもあり、すでに半分くらい借り手のめどがついています。満室で完成を迎えられそうです。

マンション販売は好調

── ビルと並ぶ主力事業の住宅でも大型マンションの計画が進行中です。しかし、市場では「新築は高すぎて買えない」という声も出てきています。

野村 地価、工事費などが上昇して住宅価格が値上がりしすぎたために、業界全体で新築マンションの供給がスローダウンしているのは事実です。しかし、そうした中にあっても特徴のある物件は順調に売れます。

 年明けから埼玉県さいたま市に供給予定の1400戸規模のマンション「SHINTO CITY」の販売が始まりますが、JRさいたま新都心駅から徒歩5分という環境の良さが評価されてモデルルームの反応は上々です。

 地方都市でも、JR高崎駅前の「ブリリアタワー高崎」(群馬県高崎市)200戸超の販売は好調でしたし、福岡県福岡市の地下鉄空港線西新(にしじん)駅に直結する「ブリリアタワー西新」も、解体工事中から問い合わせが殺到して、販売予定戸数約300戸に対して5000~6000件の事前問い合わせがありました。周辺地域の販売単価の記録を塗り替える勢いです。

── マンションの建て替えにも積極的ですが、老朽化住宅は地権者も高齢化しているので交渉が難しそうです。

野村 23棟約640戸の老朽化したマンションを、7棟約1250戸の新築に建て替えた「ブリリア多摩ニュータウン」(東京都多摩市、13年完成)は成功例の一つです。

 建て替え案件は、多数の人が建て替えの意志を持つ物件を対象にしているとはいえ、実現までに時間がかかりますし、何より地権者と信頼関係を構築する努力が求められます。簡単ではありません。ただ、地価が上昇している昨今は、入札による土地購入はどうしてもコスト高になってしまうので、今後も建て替えや再開発の案件には力を入れていきます。

 同業他社とプロジェクトの数や規模で張り合うのではなく、当社は信頼関係の深さで仕事を広げていかなければならないと社員には話しています。ガツガツしていなくて優しい社員が多い社風なので、こういう仕事は合っていると思います。

── 19年秋の消費増税の影響は。

野村 増税前後で大きな影響が出るとは思っていません。税率が5%から8%に引き上げられた14年も、駆け込み需要、反動減ともにこれといった影響はありませんでした。

── ビル、マンション以外の事業は。

野村 不動産の仲介事業をビル、住宅に次ぐ事業になるように育てたいと思っています。投資は市場の変動の影響を受けやすい事業です。ビルを保有するアセットビジネス以外の、フィービジネスなどの比率を高めることができれば、市場の変化に対する耐性が高まります。

── 海外事業は。

野村 海外での事業は、現地の良いパートナーと組むことができるかが重要です。その意味で、中国事業はうまくいっている事業の一つと言えます。現地の大手デベロッパーの万科集団と10年以上にわたり10件以上の事業をともに手がけてきました。

 単に事業を行うのではなく、両社の間に幅広い人間関係を構築することを重視してきました。おカネだけ出してお任せするのではなく、当社の人間を現地に送り込んで万科の社員と机を並べて仕事をさせます。一方の万科も、毎年数十人単位で当社に社員を研修に送り込んでいます。中国最大のデベロッパーとこれほどの人的コネクションを築くことができている日系企業は他に例を見ないでしょう。中国事業はこれまで年平均10億円ペースでの利益貢献をしているので、この調子を維持したいと思っています。

(構成=花谷美枝・編集部)

野村 均 東京建物社長
野村 均 東京建物社長

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 法人仲介を担当していました。思い描いたストーリー通りに売り手と買い手を結びつけるおもしろさに夢中になりました。

Q 「好きな本」は

A 山崎豊子さんの作品です。

Q 休日の過ごし方

A もっぱらゴルフをしています。


 ■人物略歴

のむら・ひとし

 1958年生まれ。都立大泉高校、早稲田大学商学部卒業。81年東京建物入社。ビル事業本部長、取締役専務執行役員人事部・企画部・総務コンプライアンス部担当を経て2017年1月から現職。東京都出身。60歳。


事業内容:ビルや商業施設等の開発・賃貸および管理、マンション開発、不動産の売買・仲介、海外事業

本社所在地:東京都中央区

設立:1896年10月1日

資本金:924億円(2017年12月31日現在)

従業員数:587人(17年12月31日現在)

業績(17年12月期、連結)

売上高:2669億8300万円

営業利益:447億5700万円

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