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週刊エコノミスト Online 2018年の経営者

焼酎、日本酒の新商品で市場活性化を目指す 木村睦 宝ホールディングス社長 編集長インタビュー/930

木村睦 宝ホールディングス社長
木村睦 宝ホールディングス社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

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── 焼酎ハイボールが好調です。

木村 発売は2006年で10年以上たっていますが、最近ぐっと伸びています。昨年度は販売数が初めて1000万ケース(1ケースは350ミリリットル×24本で換算)を超えました。過去4年連続で2桁増が続いており、今年度も上期(4~9月)は前年同期比18%増になっています。

 焼酎ハイボールは「チューハイ」の語源です。昭和20年代、東京下町の酒場で飲まれていた焼酎ハイボールの味をベースに、炭酸を強めにして食事に合う辛口にしています。

── タカラcanチューハイには古くからなじみがあります。違いは何ですか。

木村 こちらは1984年の発売で、どちらかというとレモンなど果実の味が強く出ています。焼酎のイメージを一新して、缶のロゴもアルファベットにして、ファッション性のあるドリンクとして登場させました。一方、焼酎ハイボールはレトロ感を出しており、両者のコンセプトは異なります。それ以外にも、焼酎ハイボールは、プリン体ゼロ、糖質ゼロ、甘味料ゼロで健康志向が高い人の支持を得ています。

── 焼酎市場の動向は。

木村 全体として00年代半ばをピークに減少傾向が続いています。国税庁の調査では、当社の主力である甲類焼酎(連続式蒸留焼酎、無色透明でクセがないのが特徴)は、今年も7月までで前年比2・4%減です。高齢化とともに、大容量の瓶で買ういわゆるヘビーユーザーが減っています。

 一方で、若者の間では「レモンサワーブーム」が全国的に盛り上がってきています。このブームをうまくつかもうと新商品も開発しています。我々としてはようやく需要の下げ止まり感が出てきていると感じています。

スパークリングの日本酒

── 日本酒ではスパークリング(発泡)の「澪(みお)」が話題です。

木村 日本酒の需要は73年がピークで、現在はその3分の1に縮小しています。市場活性化のためにも、普段、日本酒を飲まない人に手に取ってもらいやすい低アルコールの商品の開発が課題でした。澪は、お米のほのかな甘みとほどよい酸味を兼ね備え、爽やかな泡が心地よいお酒です。アルコール分5%で飲みやすく、11年の発売当初は飲食店で提供していましたが、家庭でも飲みたいという声が多く寄せられ、一時は需要に生産が追いつきませんでした。

── 焼酎、日本酒とも品ぞろえが多いのが特徴です。

木村 他社にあって当社にはないものはないようにしています。商品を仕入れる側からみると、同じ種類の商品を多数の会社から取り寄せるのは大変です。当社が、“抜け”“漏れ”がないように一通りの品ぞろえをしていれば、商品はもちろん情報も総合的に提供できるので有利です。

── 海外事業を分社化し、宝酒造インターナショナルとして大きな事業となっています。

木村 宝酒造が米国で清酒の製造販売に参入したのが82年。当時はすしブームもあって清酒への関心が高まりつつありました。販売代理店などを通じて料理店やレストランへ販売しました。00年以降は健康志向の高まりで世界中で日本食レストランが増えています。食べ物と飲み物はセットなので、和食を広げることが清酒の需要拡大につながると考え、日本食の食材卸の事業に力を入れるようになりました。フランス、英国、スペイン、ポルトガルなど欧州を中心に企業を買収し、事業を拡大しています。

タカラバイオに期待

── 子会社のタカラバイオは医薬品ベンチャーとして急成長しています。

木村 がんなどを対象にした「遺伝子医療事業」、研究用試薬や実験機器など提供する「バイオ産業支援事業」、キノコの大量生産を中心とする「医食品バイオ事業」の三つが柱です。バイオ産業支援で収益を稼いで、遺伝子医療の研究開発を進めていますが、ようやく遺伝子医療の商業化が見えてきたところです。

── がん治療薬の承認申請が近いと。

木村 皮膚がん(メラノーマ=悪性黒色腫)を対象にした治療薬「C─REV(シー・レブ)」について、今年度中に承認申請を行う予定です。腫瘍溶解性ウイルスと呼ばれる特殊なウイルスを投与して、がん細胞を破壊する仕組みです。

 また成人の急性白血病では、がん細胞を特異的に攻撃するCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子治療などを開発しています。これまでの治療法では治せなかった病気を、新しい技術で治せる一歩手前まで来ている。人類への貢献と言っては大げさかもしれませんが、そのような技術をいち早く患者さんに届けたいと思っています。

── 業績好調で中期経営計画(17~19年度)の目標を上方修正しました。

木村 当初、19年度に売上高2900億円、営業利益155億円を掲げていましたが、17年度の営業利益が156億円と目標を上回ったため、今年5月に19年度の売上高を2950億円、営業利益を187億円に上方修正しました。特に海外事業の売上高比率を33%から35%に引き上げました。将来的には50%程度を目指し、世界の和酒、和食市場でリーディングカンパニーとしての地歩を固めたいと思っています。

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 2002年の持ち株会社への移行の準備に追われていました。事業会社の持ち株会社化はまだ日本では珍しく、大変でした。

Q 「好きな本」は

A 歴史小説をよく読みます。好きな作家は隆慶一郎で、代表作は『吉原御免状』などです。

Q 休日の過ごし方

A 鴨川沿いを2時間ぐらいウオーキングします。


 ■人物略歴

きむら・むつみ

 1963年京都府生まれ。洛星高校(京都市)卒業。85年京都大学経済学部卒業、宝酒造(現・宝ホールディングス)入社。タカラバイオ財務部長、同社副社長、宝ホールディングス副社長、宝酒造インターナショナル社長(現在も兼任)などを経て、2018年6月から現職。55歳。


事業内容:酒類、調味料、食品の製造・販売。バイオ医薬品の開発など

本社所在地:京都市下京区

設立:1925年9月

資本金:132億2600万円

従業員数:4349人(2018年3月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

売上高:2681億4200万円

営業利益:156億1200万円

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