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電力自由化で勝機を狙う 内田高史 東京ガス社長 編集長インタビュー/929

内田高志 東京ガス社長
内田高志 東京ガス社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2017年4月に都市ガスの小売りが全面自由化されました。

内田 ガスについては自由化後、顧客が他社に切り替える「脱落」が50万件を超えました。1分に1件脱落している計算で、相当なペースです。全国で約200社あるガス会社のうち、50万件以上の顧客数を抱えているのは6社だけで、残りは顧客数が50万件以下です。だから、50万件の脱落は中小のガス会社が一社なくなったのと同じくらいの規模。想定を超えた競争が起きています。

── 他社への切り替えが起きている理由は。

内田 家庭用については、他社に切り替えて安くなる額は最大でも月400円ほど。その程度なら手続きの面倒さを考えると契約を変えない方がいいという人が大半です。それでも切り替える顧客がいるというのは、新規参入業者がよほど営業したのでしょう。

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電気の顧客獲得は好調

── 一方で、一足早い16年4月から全面自由化された電力小売りでは「攻め」の立場です。

内田 自由化後の電気の申し込みは165万件です。このうち145万件が既に供給を始めています。ガスで失った50万件を差し引きすれば、約100万件の顧客を新たに得たとも言えます。

── 電気が好調な要因は。

内田 獲得した電気の顧客の約7割は、各地域でガス機器の販売・点検をするグループ会社「東京ガスライフバル」が顧客1件1件にお話をして加入していただいています。ガスで普段から付き合っている顧客の信用は大きく、我々の大きな強みです。電気とガスをセットで契約すると割引率が大きい価格体系のほか、水回りなどのトラブル時に駆けつけて30分以内の作業なら原則無料で対応するサービスも好評です。

── 首都圏への新規参入が相次ぎ、電力とガスのセット料金による顧客獲得競争も激化しています。

内田 これまで首都圏に営業網がなかった会社は、顧客情報を持っていないので営業が非常に難しいだろうと思っていました。しかし、鉄道会社やマンション開発会社といった営業基盤を持つ会社と提携して参入する例が続いています。我々も、ケーブルテレビ大手のジュピターテレコム(JCOM)と都市ガスの小売りで提携します。電気についても、他社との提携を進めていこうと思っています。

── 工場用など大口は。

内田 大口を巡っては、ガスも電気も過当競争に近い状態です。ガスの大口は1995年から自由化が進みましたが、価格競争が激化し、1~2割も価格を下げる採算度外視とも言える状況で、入札では辞退も起きています。公共事業だけでなく民間でも入札が増え、価格のたたき合いになっています。価格だけの競争にならないよう、熱と電気を同時に供給する「コージェネレーション」のようにさまざまなエネルギーを一括供給して環境性と経済性を最大にするシステムも提案しています。

── 電気の方は勝算は。

内田 我々は、電力会社は持っていない最新鋭の高効率の天然ガス火力発電所を持っており、勝てる余地はあります。一方、電力会社は火力、水力、原子力などさまざまな供給パターンで価格を打ち出せます。我々は、天然ガス火力一本なので、電力市場からの調達が必要になることもあり、今後の市場のあり方で競争の仕方は変わります。現状では真夏や真冬のピーク時に、通常の価格の5、6倍に跳ね上がるなど乱高下が起きています。電力会社の供給力が市場に出されるようにならなければ、市場は拡大しないし、自由化も進みません。

── 電気の販売拡大に向けて、自社電源の容量は増やしていくのですか。

内田 いまの160万キロワットの自社電源の容量を、2020年に約300万キロワットまで確保するめどは立っています。昨年発表した中期経営計画では20年代に現在の約3倍の500万キロワットまで拡大するという目標を示し、基本的には変わっていません。ただ、市場の厚みが増して価格の安定性が高まってくれば、自分たちで電源を持つよりも、市場からの調達でまかなうということもあり得ます。市場制度がどうなっていくかを見たうえで、経済性を慎重に検討したいと考えています。

重油からの転換に需要

── 自由化に伴って22年にはガスの導管事業を分離し、別会社化することが義務づけられていますが、どう対応しますか。

内田 導管事業を持ち株会社の下に置くか子会社にするかは検討中です。ただ、分離で中立性を担保できたとしても、コストがかかる導管整備を促さない方向になれば、自由化にも天然ガスの利用拡大にもマイナスになる可能性があります。電力とガスで同じ規制をかけるのはいかがなものかと思います。

── 温暖化対策が課題となる中、今後のガス需要はどうなるとみていますか。

内田 工場用の大口を中心として、重油から天然ガスに転換する需要はまだまだあります。そういった需要を積極的に取り込めば、販売量が伸びる可能性はあります。再生可能エネルギーの普及が進んでも、調整電源として天然ガスは残ります。低炭素社会に向けて、少なくとも30年の時点では、天然ガスが伸びている可能性は十分あると考えています。

(構成=岡田英・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 主に人事や労務を担当しました。ガスの導管(パイプライン)の建設・維持管理をする部署で、保安要員の交代勤務の体制を見直しました。

Q 「好きな本」は

A 『落日の宴』(吉村昭著)です。幕末にロシアとの開国交渉にあたった勘定奉行・川路聖謨の決断力とリーダーシップに感服しました。

Q 休日の過ごし方

A 読書をしたり、年に数回ですがホームパーティーをしています。


 ■人物略歴

うちだ・たかし

 1956年生まれ。開成高校卒業。79年、東京大学経済学部を卒業後、東京ガスに入社。2012年に常務執行役員、16年に副社長となり、18年4月から現職。千葉県出身、62歳。


事業内容:都市ガスや電気の製造・供給・販売、LNGの販売、ガス工事・建設、土地建物の賃貸・管理など

本社所在地:東京都港区

創立:1885年10月

資本金:1418億円(2018年3月末現在)

従業員数:7862人(18年3月末現在)

業績(18年3月期、連結)

売上高:1兆7773億円

営業利益:1163億円

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