クラシック 第87回日本音楽コンクール 受賞者発表演奏会=梅津時比古
各部門1位受賞者全員が出演 作曲部門は初演を聴く楽しみも
日本音楽コンクールの本選を追ったNHKのドキュメンタリー番組が好評のようだ。2017年から1部門を選んで掘り下げて取材する形になったせいか、内容が濃くなり、17年のピアノ部門の放映は要望が絶えず、なんと3回も再放送した。18年のバイオリン部門も早くも再放送が決まった。
映像も興味深いが、もちろん、実演にはその場でしか味わえない高まりがある。18年の日本音楽コンクールで1位の栄冠を得た全員が出演する「第87回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」が3月7日、東京オペラシティ コンサートホールで開かれる。同ホールはまさにコンクールの本選会場。緊張の極致での演奏をくぐり抜けた彼らが、同じ場所で、今度は栄光の演奏を行う。本選からわずか半年だが、毎年、この受賞者発表演奏会では一段と成長した姿を見せてくれることが多いのもそれゆえにだろう。共演は渡邊一正指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。
第87回から、作曲部門が予選、本選すべて譜面による審査に変わったため、この受賞者発表演奏会では、作曲部門1位の作品のまさに初演を聴く楽しみも加わる。第1位を得た井上渚さんの《己を描く窓~オーケストラのための~》は、作曲者自身が「円の中に己が見えるという禅問答のような作品」と言う。さて、どんな音が聴こえてくるか、期待が高まる。
ピアノ部門1位の小井土文哉(こいどふみや)さんは、入選だった17年、NHKのドキュメンタリーが、岩手県釜石市出身の小井土さんの東日本大震災とのかかわりを描く中で、彼の真摯(しんし)な人柄が画面を通して伝わり、イケメンの容姿とともに人気が沸騰した。晴れて1位を得た今回の受賞者発表演奏会ではベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第3番》の第2、3楽章を弾く。
18年のドキュメンタリーで多くの画面に登場したバイオリン1位の荒井里桜さんはショーソンの《詩曲》。
ピッコロトランペットの高音で本選会場の聴衆を驚かせ、最も印象的な演奏に与えられる増沢賞を得たトランペットの三村梨紗さんは、フンメルの《トランペット協奏曲》。この曲も通常、半音下げて演奏されるほど高音の難しい曲だけに楽しみだ。
ドイツの現代作曲家、ヘルマン・ロイターが描くオフィーリアの狂乱を本選の舞台で演じたソプラノの森野美咲さんは、R・シュトラウスの歌曲などを歌う。
クラリネットの中舘壮士さんは本選で幻想的な演奏を聴かせたコープランドの《クラリネット協奏曲》を再演する。若い才能の晴れ姿をぜひ見てほしい。
(梅津時比古・毎日新聞学芸部特別編集委員)
会期 3月7日(木)18時30分開演・18時開場(予定)
会場 東京オペラシティ コンサートホール(東京都新宿区西新宿3-20-2)
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