教養・歴史アートな時間

映画 私は、マリア・カラス 世界最高峰の歌姫の生涯を自身の映像と文章でひもとく=野島孝一

(c)2017 - El■phant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cin■ma
(c)2017 - El■phant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cin■ma

 世界最高の歌姫、マリア・カラス(1923~1977)は、今でも多くの人々がその歌声に聞きほれている。「私は、マリア・カラス」は彼女のテレビインタビューや、プライベート・フィルムなどで構成されたトム・ヴォルフ監督のドキュメンタリー映画だ。

 改めて見て、よくぞこれだけの映像が残っていたものだ、と感服した。世界初公開の映像が半分以上を占め、これまでにテレビなどで放映された映像も、お蔵にしまわれていたものが日の目を見た。ヴォルフ監督はこれらの映像や音声を集めるのに3年間をかけたという。客席から撮ったらしい舞台映像などもあり、集めるだけでさぞや苦労しただろう。長時間のインタビューのほかに、椿姫、トスカ、カルメンなどの名曲のアリアが入り、「蝶々夫人」の着物姿もある。ラストの字幕ではプッチーニの「私のお父さん」が流れ、感涙を抑えきれない。

 一方で、声が出ないため公演を取りやめた時に受けたマスコミの執拗(しつよう)な攻撃や、船舶王オナシスとの不倫の愛、オナシスがケネディ元夫人と結婚した時に受けたショックなどが自伝や手紙に綴(つづ)られている。自筆の文書は死後に発見され、未公開のものだ。声は劇映画「永遠のマリア・カラス」でカラスを演じたファニー・アルダン。まるでカラス本人が読み上げているようだ。友人や関係者のインタビューで構成されることが多いドキュメンタリーだが、これはカラス自身の映像と文書で全うされている。その美貌、張りがあって美しい声、抜群な歌の技巧、恋多き人生、人知れぬ苦悩──。すべての面で超越したカラスの生涯が語られる。

 ポップス界でマリア・カラスに匹敵するほどの美貌と歌唱力が称賛されたのは、ホイットニー・ヒューストン(1963~2012)だろう。そのドキュメンタリー映画「ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~」(2019年1月4日~、TOHOシネマズ日比谷ほかで公開)はケヴィン・マクドナルド監督による英国映画だ。

 数々のグラミー賞を受賞。ケヴィン・コスナーと共演した映画「ボディガード」(92)は大ヒット。自ら歌った主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」は音楽史上最高レベルの売り上げを記録。一時は幸せだったが、声を失い最後には麻薬中毒で命を絶たれた。ホイットニーのほかドキュメンタリー映画にもなったジャニス・ジョプリン、エイミー・ワインハウスなどの人気歌手が麻薬と酒で早死にした。歌手活動がいかに過酷で、ストレスが多いかをカラスたちが教えてくれた気がする。

(野島孝一・映画ジャーナリスト)

監督 トム・ヴォルフ

朗読 ファニー・アルダン

原題 MARIA by CALLAS

2017年 フランス

TOHOシネマズシャンテほか公開中

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