教養・歴史アートな時間

映画 22年目の記憶 幻の南北首脳会談に翻弄された俳優とその息子の悲哀を描く=寺脇研

    (C)2018 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
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     2018年は、北朝鮮と韓国との関係に大きな進展があった。2月の平昌冬季五輪に北朝鮮が急遽(きゅうきょ)選手団を送ったのを皮切りに、4月27日には軍事境界線上の板門店で両国首脳が会談し、その結果として6月12日にはシンガポールでトランプ大統領と金正恩(キムジョンウン)委員長による歴史的な米朝首脳会談が実現した。9月19日にも、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領がピョンヤンを訪問して2度目の南北首脳会談が行われている。こうやって朝鮮半島の緊迫感が緩和されるのは、我々にとっても喜ばしい。

     でも、その46年も前の1972年に北の金日成(キムイルソン)主席と南の朴正熙(パクチョンヒ)大統領の間で首脳会談が構想されていた事実は、この映画で初めて知った。南北共同声明が出された融和ムードの中で会談の可能性が生まれ、南ではそのためのリハーサルが行われたというのである。このころは南も独裁政権だから、金日成役を演じて朴正熙の会談進行練習台になる役者も、諜報(ちょうほう)機関によって駆り出される。

     大舞台のオーディションとだまされて応募した売れない役者は、別室で拷問される反体制派の悲鳴の響く諜報機関本部で特訓を受け、北の独裁者に成り切っていく。体重まで本物に似せるため大食いを強いられたり、にわか勉強で北朝鮮の思想を暗記させられたりする場面など、これが国家の命令なのだと思えば笑うに笑えない。結局、首脳会談は中止になってしまうというのに。

     それでも、老母と幼い息子の3人で暮らす家に帰ると役者は子煩悩な父親になる。国から得たギャラでマイホームを手に入れたときは得意満面、息子との語らいに相好を崩す。冒頭、所属劇団の「リア王」公演で大失敗する大根役者ぶりを、名優ソル・ギョングが巧みに演じるのがご愛嬌(あいきょう)だ。

     そして22年後の94年。老いた役者は認知症気味で施設に入っており、成人した息子は怪しいマルチ商法を操る詐欺師まがいの暮らしで借金に追われている。持ち家が開発事業で高く売れそうだというので、朽ち果てたその家で2人はかりそめの同居を始める。だが耄碌(もうろく)した父は完全に自分が金日成だと信じ込んでおり、売却しようともくろむ息子の思い通りにはならない。

     そんな時、金泳三(キムヨンサム)大統領と金日成主席との首脳会談が計画され、役者は22年前に果たせなかったリハーサルに臨むことになるのだが……。

     政治に翻弄(ほんろう)される平凡な庶民の悲哀を描くとなると、韓国映画は実に生き生きしてくる。その上、父と息子の情愛物語も「お家芸」だ。もののみごとに、22年の時を隔てたユニークなドラマが成立した。

    (寺脇研・京都造形芸術大学客員教授)

    監督 イ・へジュン

    出演 ソル・ギョング、パク・ヘイル、ユン・ジェムン、イ・ビョンジュン、リュ・へヨン

    英題 My Dictator

    2014年 韓国

    シネマート新宿ほかで公開中

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