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映画 ファースト・マン 月面着陸を疑似体験できる映像 アポロ11号の宇宙飛行を描く=野島孝一

(c)Universal Pictures
(c)Universal Pictures

 アポロ11号で、人類で初めて月面着陸したニール・アームストロング船長と、その家族を描いた大作だ。とにかく製作陣の顔ぶれがすごい。製作総指揮はスティーヴン・スピルバーグ、監督は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル。ニール・アームストロング役に「ラ・ラ・ランド」のライアン・ゴズリング、その妻ジャネットに、ミレニアムシリーズ「蜘蛛の巣を払う女」でリスベットに抜擢(ばってき)されたクレア・フォイ。エド・ホワイト役にジェイソン・クラーク、バズ・オルドリン役にコリー・ストールなどだ。

 誰でも知っている月面着陸。今さら映画で見たところで……と正直思ったのだが、やはりチャゼル監督の映像感覚は人並み外れている。宇宙旅行の疑似体験をさせてくれるのだ。ジェミニ計画のドッキング場面や、アポロ11号の打ち上げのリアル感はすさまじく、画面とともに宇宙へぶっ飛んでいるような感じにさせられた。打ち上げ時の音のすさまじさ。実際の振動が伝わってきて、目が回りそう。それとは逆に月面の静けさと、太陽光を受けた月面の白い輝きは強烈だ。

 観客が自分も月面に降り立つようなリアル感は、チャゼル監督の巧妙な映像計画によって成立した。カットバックで振り返るアームストロング夫妻の過去は35ミリ、宇宙船内は16ミリ、月面は高精細度なIMAX65ミリフィルムで撮影されている。今は撮影も上映もデジタル全盛の時代なのに、フィルムを使ったのは、映像へのこだわりにほかならない。狭い宇宙船内でのシーンは、あえて粒子の粗い16ミリで撮り、月面は鮮明で広がりがあるIMAX映像に切り替える。これによって観客も、宇宙飛行士と同じような気分に浸ることができる。

 携帯電話もなかった1960年代に、“ブリキ缶”のような宇宙船で月面に到達することは、どんなに大変だったことか。尊い犠牲者も出た中で、あまたの反対論を押し切って遂行された国家の威信をかけた宇宙旅行と飛行士たちの勇敢さには感銘を受けざるを得ない。

 宇宙のスペクタクルシーンには、圧倒されるが、それ以前のアームストロングとジャネット夫妻のこまやかな描写にも心打たれる。特に難病で失われたアームストロングの愛娘のかわいらしい記憶のシーンには泣かされた。

 冷静に夫を支えた妻の心境をクレア・フォイが見事に演じた。アポロ打ち上げ前にアームストロングが、幼さの残る2人の息子たちに別れを告げる場面も印象的だ。死をも覚悟した男の表情は神々しいほどだ。

(野島孝一・映画ジャーナリスト)

監督 デイミアン・チャゼル

出演 ライアン・ゴズリング クレア・フォイ ジェイソン・クラーク

2018年 米国

原題 First Man

2月8日(金)~TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

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