教養・歴史アートな時間

舞台 劇団青年座 第235回公演 SWEAT スウェット=濱田元子

撮影=坂本正郁
撮影=坂本正郁

米国の衰退した「ラストベルト」 労働者が抱える怒りや焦燥を描く

 米国のトランプ政権が3年目に入った。この間、米国第一主義のもと国際協調の秩序が揺らぎ、国内は分断が進む。

 2016年の大統領選勝利を支えたのがオハイオ州、ミシガン州、ペンシルベニア州など米中西部から北東部に位置する「ラストベルト(rustbelt)」すなわち、さびれた工業地帯だ。かつては製造業や製鉄業などで栄えたが、工場の国外移転など経済のグローバル化の中で地域産業は衰退していった。

 そのラストベルトで仕事を奪われた労働者たちが抱える不満や怒り、若者の焦燥を描き、「トランプの勝利を解き明かす芝居」(米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙電子版)と評されたのが米劇作家リン・ノッテージによる「SWEAT スウェット」だ。青年座が伊藤大演出で本邦初演に挑む。

 作者は現地で徹底したインタビュー取材を重ねた。初演は15年7月というから大統領選の1年強前。国が動いていく方向を予見していたかのような、深い洞察に驚くほかない。17年には「アメリカン・ドリームを追い続ける労働者がいまだに直面している不利な状況を観客に思い起こさせる、繊細だが強烈なドラマ」として2度目のピュリツァー賞(戯曲部門)を受けた。

 舞台はラストベルトの典型的な街、ペンシルベニア州レディング。ドイツ系白人のトレーシー(松熊つる松)、黒人のシンシア(野々村のん)、イタリア系白人のジェシー(佐野美幸)の3人は、同じ工場で働き、同じバーに通い続ける友人だが、会社がメキシコへの工場移転を発表したのを機に友情に亀裂が入っていく。

 管理者側となったシンシアに不信感を抱く、かつての仲間の労働者たち。より賃金の安い移民に職を奪われていく中で、思わぬ事件が起こる。

 芝居はITバブルが崩壊した00年と、リーマン・ショックの08年という二つの時代を往還。トレーシーの息子ジェイソン(久留飛雄己)やシンシアの息子クリス(逢笠恵祐)らを絡ませ、愛と葛藤が渦巻く人間ドラマを描きながら、不満と閉塞感がマグマのようにたまっていく社会をあぶり出していく作劇術が見事だ。

 小田島恒志と小田島則子両氏の共訳。則子氏は「どこの先進国でも起きていることは同じ。これからの世代に一条の光が差しているのがアメリカ的であり、この戯曲の素敵なところ」と指摘。恒志氏は「希望を残すが、相当寒々しい光景を目にする。これが今なんだなと思う」と話す。

 米社会を通して、世界そして日本を見つめたい。

(濱田元子・毎日新聞論説室兼学芸部)

会期 3月6日(水)~12日(火)

会場 駅前劇場(東京都世田谷区北沢2-11-8 TAROビル3F)

料金 一般4500円

問い合わせ 劇団青年座

TEL 0120-291-481(チケット専用11時~18時・土日祝除く)

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