資源・エネルギー福島後の未来をつくる

日本の原子力はまさに問題百出の状況だ=橘川武郎/82

    新潟県の東京電力柏崎刈羽原発。手前から5号機、6号機、7号機、4号機、3号機、2号機、1号機
    新潟県の東京電力柏崎刈羽原発。手前から5号機、6号機、7号機、4号機、3号機、2号機、1号機

     2019年3月で東京電力・福島第1原子力発電所の事故から8年が経過する。原子力を巡る政策変更や事業改革が国民的課題となったにもかかわらず、今日に至っても、ほとんど成果を上げていない。一方で18年11、12月だけでも、原子力を巡って、いろいろなことが起きた。

     11月には、原子力規制委員会が、運転開始から40年の廃炉にする期限が迫った日本原子力発電の東海第2原子力発電所(茨城県)に対し、最長20年の運転延長を認める決定を下した。しかし、その際に同社の和智信隆副社長が「周辺6市村と交わした協定には原発再稼働に対する『拒否権』は含まれていない」という旨の発言をしたことに周辺自治体の首長らは猛反発し、年末に村松衛社長らが謝罪に回る事態となった。

     12月には、日本経済団体連合会(経団連)会長でもある日立製作所の中西宏明会長が、日立の英国への原発輸出計画に関し「難しい状況。もう限界だと思う」と発言、19年1月に計画の中止が決まった。

     また、政府の原子力関係閣僚会議が、廃炉が決まった高速増殖原型炉「もんじゅ」の後継となる高速炉計画について開発方針の工程表を正式決定したが、炉型などの具体像を示すには至らず、実用化目標を21世紀後半に先送りする実現性の乏しい内容となった。さらに、年末には日本原子力研究開発機構が、所有する原子力関連79施設を廃炉・廃止するためには、70年の歳月と1兆9000億円の費用がかかると発表。

     日本の原子力は、まさに問題百出の状況で、福島事故から8度目の新年を迎えることになったのである。

    山積された七つの課題

     8年間に山積された原子力を巡る諸課題を整理すると、大きく次の七つに分類することができる。

    (1)福島事故の事後処理をいかに進め、被災地復興を実現するか。

    (2)18年閣議決定された第5次エネルギー基本計画の30年の電源構成「原発比率20~22%」方針を、達成できるのか。

    (3)原子力の廃炉・廃止にあたり、必要な人材をどう確保するか。

    (4)第5次エネルギー基本計画が打ち出した50年までに再生可能エネルギーを「主力電源化」する新方針のもとで、原子力の未来をどのように描くか。

    (5)もんじゅ廃炉後の核燃料サイクルと使用済み核燃料の処理(バックエンド)を、いかに進めるか。

    (6)原発輸出が困難になった状況下で、日本の重電メーカーはいかなる方針をとるべきか。

    (7)そもそも、山積する原子力問題を解決する主体は、いったい誰なのか。

     いずれも解決が困難な重たい課題ばかりである。(1)の福島事故の事後処理をいかに進め、被災地復興をどのように実現するか。鍵を握るのは、そのための財源である。福島事故の事後処理費用は、少なくとも22兆円に達すると試算されている。その内訳は廃炉8兆円、被災者賠償8兆円、除染・中間貯蔵6兆円である。事故を起こした東京電力が支払える金額をはるかに超えており、やがて国民が負担することになるのは避けられない。そうしなければ、福島復興はあり得ないからである。

     しかし、ものごとには順番がある。まずは東電自身の徹底的なリストラの遂行が重要で、そのあとで初めて、国民負担は行われるべきだ。東電の徹底的なリストラとは、柏崎刈羽原子力発電所(821万2000キロワット)の完全売却にほかならない。

     柏崎刈羽原発は17年12月に6、7号機(135・6万キロワット×2基)が再稼働の前提となる安全審査に合格。6、7号機が再稼働した場合、合計で年間約1000億~2200億円の収益改善効果が見込めるといわれる。17年に政府が認定した東電の再建計画である「新々・総合特別事業計画」(新々総特)の眼目は、東電が原子力事業を分社化し、他社と連携したうえで、柏崎刈羽原発を再稼働させることだ。しかし、東電と連携して原子力事業を進めることは、福島の事後処理費用分担を求められる、いわゆる「福島リスク」を負うことになるため、他の大手電力がこの分社・連携案に応じるはずがない。ここで大手電力会社の事情ばかりに目を奪われては、問題の本質を見失う。大切なのは、国民目線に立ったとき、事故の事後処理をいかに進めるべきかという視点だ。

     福島事故の廃炉・賠償・除染費用は、最終的には電気料金への組み入れなどを通じて、国民負担となる恐れが強い。そうであるにもかかわらず、事故を起こした当事者の東電が、たとえ他社と連携する形をとったとしても、柏崎刈羽原発を再稼働し、原発事業を継続することになれば、日本国民の怒りは頂点に達する。国民がそのような状況を許すことは、けっしてないだろう。

    柏崎刈羽原発を売却

     つまり、柏崎刈羽原発の再稼働が起こり得るのは、東電が同原発を完全売却し、当事者でなくなった場合だけだということになる。東電の手による柏崎刈羽再稼働を至上命題とする新々総特が実現する可能性は、皆無と言ってよいのだ。東電が柏崎刈羽原発の売却で得た資金は、想定以上にさらに膨らむと予想される福島第1原発の廃炉費用に全額充当される。それだけで22兆円の事後処理費用はカバーできず、最終的には国民負担が生じることになるが、まずこの売却が行われなければ、国民は負担に応じることができない。

     売却先となるのは、柏崎刈羽原発の地元の新潟県に電力を供給している東北電力や、現状では最大株主の東電が国家管理下にあるため事実上の「準国営会社」となっている日本原子力発電などである。これらの会社への売却が可能になるのは、売却で得た収入が全額廃炉費用(現在の想定では8兆円)に充当されれば、柏崎刈羽原発は「福島リスク」から切り離されるからである。

     柏崎刈羽原発の売却で、同原発の再稼働を前提に立案した新々総特は破綻するので、東電は火力発電所も手放すことになる。火力発電所の売却で得た資金も、福島事故の事後処理費用に充当される。

     東電は中部電力と共同で15年に折半出資で火力発電会社JERAを設立した。発電容量は約6600万キロワットで、うち東電の設備は4300万キロワットに達する。東電株の中電への売却によりJERAは中部電力の傘下に置かれるわけである。

     柏崎刈羽原発や火力発電所を売却しても、東電は、傘下のネットワーク会社・東電パワーグリッド(従業員数1万7500人)や小売会社・東電エナジーパートナーが、世界最大級の需要密度を持つ首都圏での売電による安定的な収益を上げ続けるため、半永久的に福島への賠償を継続することができる。もちろん、東電内の福島復興本社や福島第1廃炉推進カンパニーは存続し、これまた半永久的に事故処理や福島復興にかかわる業務を続ける。

     一方で、柏崎刈羽原発や東電の火力発電所で働く人員は別の会社に引き継がれるので、雇用確保や電力の安定供給は担保される。福島事故の事後処理は、このように進展するであろうし、進展させるべきであろう。

    リプレースを封印した政権

    (2)の30年の電源構成における原発比率を20~22%とする政府方針は、もはや達成不可能だ。何%であれ、将来も原発を使うなら、危険性を最小化する意味から、古い原子炉を廃棄し最新鋭の炉に建て替えるリプレースが不可欠である。

     しかし、安倍晋三首相1強時代が長く続いたにもかかわらず、政府は、選挙への影響をおそれて、リプレースを封印した。たとえリプレースが行われても、新炉の建設規模より旧炉の廃止規模の方が上回るから、30年の原発依存度は多くても15%程度だ。ましてやリプレースを回避する現状の政府方針のもとでは、30年の原発依存度は、目標の20~22%の半分以下にとどまるのではないか。いずれにしても原子力施設の廃炉・廃止は不可避で、廃炉技術の社会的意義を明確にし、それを原子力工学の中心に据え直さない限り、(3)の必要な人材確保は困難だろう。

    (4)の再エネを主力電源とする国の方針と(5)の核燃サイクル及びバックエンドについてはどうか。原子力と再エネは、発電時に二酸化炭素をほとんど排出しないという点で、共通性をもつ。ただし、原子力には、使用済み核燃料の処理問題が未解決だという、致命的欠陥がある。したがって、「脱炭素」が進む50年の電源構成で主力となるのは、あくまで再エネだろう。ポスト「もんじゅ」の高速炉開発が思うように進展せず、バックエンド問題解決の見通しが立たないならば、日本の原発が50年までにすべて「たたまれる」というシナリオもあり得る。

    (6)の重電メーカーにとって原子力はあくまで一つの事業部門にすぎない。各社とも、今後は安定的な収益が見込めるインフラ部門に経営資源を集中し、採算性が悪い原子力部門を縮小するだろう。設備保全や安全保障の観点から原子力事業が放棄されることはないが、経営効率上の理由から各メーカーの原子力部門が分離・統合されるかもしれない。

    視界は3年でなく30年

     最後に(7)の解決主体は誰が担うべきかについて。この8年間、政治家や官僚は、原子力に関して、できる限りことを荒立てず、問題の先送りを決め込んできた。

     日本の原子力開発は、国策民営方式で進められてきた。福島事故のあと、当事者である東電が、福島の被災住民に深く謝罪し、ゼロベースで出直すのは、当然のことである。加えて、国策として原発を推進してきた以上、関係する政治家や官僚も、同様にゼロベースで出直すべきである。しかし、彼らは、それを避けたかった。そこで思いついたのが、「たたかれる側からたたく側に回る」という作戦である。

     この作戦は、東電を「悪役」として存続させ、政治家や官僚は、その悪者をこらしめる「正義の味方」となるという構図で成り立っている。彼らは、熱心に「たたく側」に回ることによって、「たたかれる側」になることを巧妙に回避してきた。「たたかれる側」になりかねないリプレースのような「やっかいな問題」は提起せず、原子力改革を先延ばしにしてきたのである。結果として、事故から8年が経過したにもかかわらず、原子力政策は漂流したままである。

     次の選挙・次のポストを最重要視する政治家・官僚の視界は、3年先にしか及ばない。しかし、原子力政策を含むエネルギー政策を的確に打ち出すためには、少なくとも30年先を見通す眼力が求められる。このギャップは埋めがたいものがあり、そのため、日本の原子力政策を巡っては、戦略も司令塔も存在しないという不幸な状況が現出している。

     問題の先送りに終始する政治家や官僚には何も期待できない。原子力問題を解決するカギは、民間電気事業者が握っている。

    (橘川武郎・東京理科大学大学院経営学研究科教授)


     ■人物略歴

    きっかわ・たけお

     1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

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