教養・歴史書評

自殺、死生学……「死」を考える本を読む=高部知子

    『自殺会議』
    『自殺会議』

    ×月×日

     日本が「自殺大国」といわれるようになってから国はいろいろな取り組みをおこなってきたようだが、近年ようやく効果が表れてきたのか、年間3万人もいた自殺者が、2017年には、2万1321人まで減ってきた(警察庁統計)。それでもやはり1日50人以上の方が自殺をしている計算になる。遺族、知人まで含めたら一体どのくらいの人が傷つき、苦しんでいることだろう。今回私が読んでみた本は、そうした遺(のこ)された家族の話だった。『自殺会議』(末井昭著、朝日出版社、1680円)。

     この本は著者が次々と自殺によって大切な人を失った経験のある人と対談をしていくという構成になっている。自分自身が自殺しようとした人。母親や子供を自殺で失った人。さらに、自死しようとしている人を30年以上助け続けている人などが登場する。

     当事者である遺族の言葉はどれも重い。しかし著者は「この本を読んで死ぬのがバカらしくなってくれたら嬉しい」という。その言葉通り、重い言葉の行間に不思議と希望や明るさ、生きる意味のようなものがにじみだしてくる。例えば「自殺が一番少ない町・徳島県海部(かいふ)町」にあるという格言。「病(やまい)は市(いち)に出せ」というのだそうだ。これは病気のことではなく、悩みや苦しみがあったらさっさと人前に出してしまえ! そして「市」なので、皆にワイワイ買い取ってもらえ! ということらしい。

     なるほど、言い得て妙。古くからある格言らしいが、こんな先達の知恵、覚えておきたい。

    ×月×日

    「人は必ず死ぬ」。これは逃れられない事実なのだが、昔の人は今よりずっと死が身近で、無抵抗だったわけで、だからヒトは神を創り、宗教を創り、あの世まで創りだして死を乗り越ようとしてきたのだろう。自分がこんなことを考え始めたのは良いきっかけだと思い、死について考えるために『人文死生学宣言』(渡辺恒夫ほか編著、春秋社、2500円)にチャレンジしてみた。

     一見難しく思えるタイトルだが、かなり初心者に優しい構成になっている。まず第1部が入門編となっていて、哲学者、精神科医、人類学者などが、それぞれの立場から身近な例え話を交え、「死」「臨死体験」「不死のテクノロジー」などを語っている。そして第2部では、もう少し哲学的な話にまで踏み込み「私の死後にも生きる他者」などについて議論が展開する。例えば輪廻(りんね)転生はトンデモ話ではなく、論理的に可能な死生観であるということを体験できる思考実験方法なども書かれていて、多面的に「死」を考察できるように工夫されている。

     私の娘が重い心臓病で死に直面していた時、「私自身が死ぬ方が100万倍楽だろう」などと思ったことがある。でも私はその娘を遺して死ぬわけで、彼女はその時、遺された悲しみを味わうということになる。さまざまな死について家族で話し合うことって、すご~く大事な気がしたのだった。

    (高部知子・精神保健福祉士)


     ■人物略歴

    たかべ・ともこ

     1967年生まれ。慶応義塾大学卒業。3人ユニット「わらべ」などで活躍後、結婚・出産を機に引退。著書に『だいじょうぶ! 依存症』がある。


     この欄は、荻上チキ、高部知子、孫崎享、美村里江、ブレイディみかこ、楊逸の各氏が交代で執筆します。

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