週刊エコノミスト Online注目の特集

アサンジ容疑者逮捕 反権力の「英雄」からロシアに取り込まれたウィキリークス=黒井文太郎

根強い支持者がいる。英ロンドンでまかれたアサンジを支持するポスター=4月11日(Bloomberg)
根強い支持者がいる。英ロンドンでまかれたアサンジを支持するポスター=4月11日(Bloomberg)

 米外交公電公開など機密情報暴露で一世を風靡(ふうび)した「ウィキリークス」の共同創設者であるオーストラリア人の元ハッカー、ジュリアン・アサンジ氏が4月11日、イギリス警察に逮捕された。アサンジ氏は2012年より在ロンドンのエクアドル大使館に匿ってもらっていた。

 12年当時、エクアドルは反米左翼のコレア政権であり、米国に追われていたアサンジ氏を受け入れた。しかし、17年に政権が交代し、親米派のモレノ政権になった。アサンジ氏を放り出すのは時間の問題だった。

 アサンジ氏の逮捕に対しては、報道の自由を不当に抑圧するものだとの批判もある。ウィキリークスは、たとえば10年にイラク駐留米軍の武装ヘリが民間人を殺りくした場面の映像(07年撮影)を公開するなど、権力が隠蔽(いんぺい)していた不正を暴くこともあった。同年の米外交公電の暴露などは、米政府からは批判されたが、これも権力側の情報を暴いたということで、英雄視する人々も少なくなかった。

 アサンジ氏は権力と戦うヒーローというわけで、米政権の対外政策に批判的な言語学者のノーム・チョムスキーさん、映画監督のマイケル・ムーアさん、歌手のレディー・ガガさん、女優のパメラ・アンダーソンさんら、著名人の支援者も少なくなかった。

反米陣営に接近

 しかし、アサンジ氏は政治的に中立な立場で、純粋に情報公開を追求していたわけではない。当時のエクアドルのような世界の「反米」陣営に接近し、その「反米」陣営の側もアサンジ氏を利用しようとした。

 中でもアサンジ氏が頼ったのが、米大統領選への介入など大掛かりな情報工作を進めていたロシアだった。アサンジ氏は早くも12年にはロシアの宣伝放送である「RT」にレギュラー出演するなどロシアに取り込まれ、16年の米大統領選では、ロシア情報機関から提供された米民主党の内部メールを公開した。米国に打撃になると知っていて、ロシアの工作の片棒を担いだのだ。

「情報工作」案件に

 他方、ウィキリークスは、ロシアのウクライナでの秘密工作に関するロシア内務省内部データの受け取りは拒否している。アサンジ氏は完全に、ロシアの利益のために動く存在に成り下がっていた。

 現在、ロシアの政府系報道機関や、報道機関に登場する常連である映画監督のオリバー・ストーンさん、米国家安全保障局(NSA)のエドワード・スノーデン元工作員などの親露派が、アサンジ氏逮捕を声高に非難している。アサンジ氏の存在自体が、今や「ロシアの情報工作」案件になってしまったといえよう。

(黒井文太郎・ジャーナリスト)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事