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週刊エコノミスト Online 挑戦者2019

谷川佳/小林俊仁 ukka代表取締役 農産物と食の新しい関係

撮影:武市公孝
撮影:武市公孝

 果物に野菜、牡蠣(かき)、チーズ、ワイン──。生産者のこだわりに共感し、オーナーとして応援する。収穫するまでの様子を知る。届いたら、どう味わったか伝える。2人が目指すのは、並んだものを買うだけの「消費者」ではない食の形だ。

(聞き手=黒崎亜弓・編集部)

小林 今の農産物流通では、生産者の取り分が少なく、旬が一瞬しかないものは流通させづらい。例えば、店頭に並ぶイチジクは硬いうちに収穫されたものですが、僕たちが運営する「オーナーズ」のインターネットサービスでは、まず生産者が、木に実った状態で完熟したイチヂクを食べたいと思う人を募ります。栽培前に代金を振り込んでもらい、実っていく間、その様子を注文した人にネット上で伝えます。そして一番おいしい状態で収穫したイチジクを届けるのです。

 食の分野ではネット通販も拡大していますが、選ばれる基準はランキングや知名度になりがちで、瞬間的に売れても固定客にはなりづらい。オーナーズでは生産者がこだわりを伝え、共感するファンを作ることで、先に収入が入り経営が安定します。

谷川 僕は就職したPR会社で地域ブランディングに携わっていましたが、地方で知り合った人が産品を送ってくれるようになりました。都会にいながら、自分がつながりのある食を楽しめる。それを事業として作ろうと思い、理解してくれる経営者のもとで16年にオーナーズを立ち上げました。

小林 僕は実家が三重県のコメ農家でしたが、父は祖母の後を引き継ぎませんでした。農業を続けられるものにするにはどうすればいいのかという思いがありました。欧州ではネットを活用した共同購買が伸びていると知り、日本でもできないかと思って農家を回っていると、千葉県館山市で果物を作っている人から「同じことを考えているヤツがいる」と言われました。それが(谷川)佳です。

谷川 (小林)俊さんにはオンラインゲーム会社で事業を成長させた経験があります。僕はゼロから1を立ち上げることはできましたが、1から100にすることは無理でした。

小林 別々にサービスを立ち上げていたら競合していました。目指すものが同じですから。僕がITサービス開発と資金調達、佳がビジネス担当です。

 7月にサービスをリニューアルします。利用者がまず生産者のファンになり、次にリピーター、そしてオーナーになるというようにステップを踏んでいける形にします。

ファンからオーナーへ

谷川 ファンの段階では「まず食べてみる」「そのつど、買う」。これは今のサービスの形です。ただ、気に入った生産者の産品を食べ続けたいと思うと、いちいち申し込むのは手間がかかります。そこで、7月からはサブスクリプション(一定期間の定額購入)のサービスを始めます。いったん申し込むと継続的に産品が届きます。

 同時に、オーナーとして、産品をおまかせで送ってもらったり、商品開発に携わったりできるサービスも展開します。消費者ではなく当事者として、より生産者とのかかわりを深めることができるようにします。

マンションでの共同購買を試験的に行っている
マンションでの共同購買を試験的に行っている

小林 課題になるのは物流コストです。そこで並行して、マンションでの共同購買も試験的に行っています。事前に専用サイトで注文をとり、まとめて届けて配る、いわば「IT武装した生協」です。三菱地所グループの担当者が共感してくれ、連携しています。マンション住人の交流にもつながります。

 テクノロジーを活用して、あったかい食の消費を実現します。


企業概要

事業内容:インターネットを活用した農産・水産・加工品の販売・流通プラットフォームサービスの運営・管理

本社所在地:東京都千代田区

設立:2017年9月

資本金:5482万円

従業員数:6人


 ■人物略歴

こばやし・としひと

 1977年生まれ。京都大学大学院情報学研究科修了。在学中からオンラインゲーム開発に携わり、2010年5月からONE-UP社テクニカルディレクター、11年6月にゲーム会社Aimingに移籍し13年5月に最高技術責任者に就任。Aimingは15年4月に東証マザーズ上場。17年9月にukkaを共同創業し代表取締役に就任。42歳。


 ■人物略歴

たにがわ・けい

 1987年大阪府生まれ。関西大学法学部卒業後、PR会社に入社。2015年に「オーナーズ」のサービスを立ち上げる。17年9月にukkaを共同設立し、代表取締役に就任。31歳。

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