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週刊エコノミスト Online 令和の日本経済大予測

どうなる?令和の「会社」 「選択と集中」の余白にビジネスチャンス見いだせ=米倉誠一郎・法政大学教授

米倉誠一郎 法政大学教授(経営学)
米倉誠一郎 法政大学教授(経営学)

── 平成を振り返って。

■日本の国内総生産(GDP)はこの20年間、ほとんど成長を遂げていない。1960年代から終身雇用を前提として比類ない成長を遂げたが、その成功体験に引っ張られ、企業は身を切るような改革ができなかった。米国ではシリコンバレーから新しい企業が続々と生まれてイノベーション(技術革新)を起こし、時価総額の上位企業の顔ぶれはこの20年でがらっと変わったが、日本はほぼ同じ。企業の新陳代謝が起きなかった。

── この先、日本企業が直面する課題は何か。

■大企業は選択と集中を進め、利益率の高い事業に絞っていくだろう。つまり、事業の撤退やリストラといった「負の意思決定」をさらに迫られる。一方、撤退した分野では新たに企業が参入する余地である「エコノミック・スペース」が生まれる。そこに新規参入や起業といったチャレンジがどんどん起これば、日本の生産性は上がる。

── その兆しはあるか。

■例えば、大手電機メーカーは2008年のリーマン・ショック前後から家電部門の売却・統合、大規模リストラをしてきた。一方、新たに家電に参入した企業もある。アイリスオーヤマ(仙台市)だ。パナソニック、シャープ、三洋電機など大手からの転職・退職者を積極採用し、ユニークな商品を低価格で出して成長している。

 掃除機で有名な英国のダイソンも、大手各社が2万~3万円程度の低価格帯で競って疲弊する中、約7万円という高価格帯に商機を見いだし、「世界のダイソン」になった。これも大手が敬遠した「エコノミック・スペース」を見いだした例だろう。

── イノベーションを起こすには。

■今までの価値観を破壊するような新しいことをしなければ、イノベーションは起こらない。「まだ先が分からないこと」に企業がチャレンジできる仕組みが必要だ。米国では80年代、規制緩和で年金基金から多額のリスクマネーがベンチャーキャピタル(VC)に流入し、活況を呈した。資金調達を支えるVCが多いほど起業しやすくなる。失敗してもそれは経験だ、と尊重する米国の気風も見習うべきだろう。もう一つは、雇用の流動性を高めることが大事だ。

── どういうことか。

■優秀な人材を大企業が囲っているのはもったいない。例えば、兼業・副業がもっと増えれば、大企業から人材が人手不足のベンチャーにも行き届く。一人の人間の能力や才能を、一つの会社だけで使わず、多重利用する社会になれば、生産性は向上する。兼業・副業が広がるには、本業でかかる時間を短縮する効率化が必要だ。IT(情報技術)やAI(人工知能)を活用すれば十分可能だ。働き方改革は生産性革命につながる。

── 人手不足も補えると。

■ITで、これまでリアルタイムに把握しきれなかった一人一人の空き時間を精緻(せいち)に管理でき、人手と仕事のマッチングがしやすくなった。高齢者の労働力にも余地がある。そういった空き時間や労働力をうまくシェアできれば、人手不足はなくなるかもしれない。そして、それぞれが能力を発揮できる「エコノミック・スペース」を見つければ、活力ある社会になる。

(米倉誠一郎・法政大学教授(経営学))

(聞き手=岡田英/白鳥達哉・編集部)


 ■人物略歴

よねくら・せいいちろう

 1953年東京都生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修了。一橋大教授などを経て現職。一橋大名誉教授、特任教授も務める。主な著書に『創発的破壊』など。66歳。

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