トルコショック ミタルが欧州鉄鋼減産 警戒強めるトルコ経済=真田明
世界鉄鋼最大手のアルセロール・ミタルが欧州で年間300万トンの減産に踏み切る。日本のメーカーに例えれば、電炉最大手の東京製鉄が丸ごと消える減産が行われる。欧州はミタルのお膝元で、グループ生産量の半分となる約4500万トンを生産している。この減産がまわりまわって新興国の経済危機に波及する可能性が浮上している。
欧州の鉄鋼市場は新排ガス規制の影響で、自動車向けの需要が落ち込んでいた。追い打ちをかけたのが、米トランプ政権の鉄鋼製品への追加関税だ。昨年3月、トランプ政権は米国に輸入される鉄鋼製品に25%の追加関税を課した。同年8月にはトルコのみ50%に引き上げた。
これにより、米国へ輸出されていたロシアやトルコの鋼材がだぶついたのだ。この鋼材が欧州へ流れ込み、原燃料コストが上昇しているにもかかわらず、欧州の鋼材価格は下がっている。この結果、ミタルの1~3月期決算では欧州事業の営業利益がわずか1100万ドル(約12億円)と前年同期比で98%減に落ち込んだ。
懸念はアジア流出
いま欧州の鉄鋼関係者が不安視しているのがトルコだ。トルコはエルドアン政権への不信から通貨のリラ安が進み、経済も混乱している。そのトルコはロシアにとり黒海の港から近く、大量の鋼材を輸出できる「上客」だった。
リラ安でトルコはロシアからの輸入品を買わなくなったばかりか、欧州向けの鋼材輸出を増やしている。今年1~3月期の欧州におけるトルコからの鋼材輸入は前年同期比36%増の204万トンまで増加した。
5月16日にトランプ政権はトルコから輸入する鉄鋼の関税を25%に戻すと発表したが、ロシア、トルコ双方が欧州の鉄鋼市場を狙う動きは、今の不安定な政治情勢が続く限り解消されそうにない。
ミタルは減産を表明することで、欧州当局へ輸入鋼材の規制を働きかける狙いとされる。一方で鉄鋼を主力輸出品とするトルコが欧州から締め出されれば、トルコは外貨獲得の有力手段を失いかねない。これが「トルコショックの引き金になる」(欧州の鉄鋼関係者)といった声も聞こえ始めている。
外貨準備が急減しているトルコがこれを補うため、アジアへ鉄鋼を安売りすることで世界の鉄鋼貿易が混乱する、といった懸念もある。ミタルの欧州減産が示唆するものは多い。
(真田明・ジャーナリスト)