経済・企業 2019年の経営者

編集長インタビュー 小宮暁 東京海上ホールディングス社長

東京海上ホールディングス社長 小宮暁 photo 武市公孝
東京海上ホールディングス社長 小宮暁 photo 武市公孝

リスクを分散し経営基盤を強化

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 国内の損害保険事業について、昨年は災害が多い年でした。

小宮 昨年の自然災害にかかわる当社の保険金の支払額は約5000億円で、件数は約42万件となり、東日本大震災が起こった2011年を支払金額、件数ともに上回りました。

── 経営への影響は。

小宮 こうした災害が20~30年に1度の確率で起こることを折り込んで、中長期的に経営を考えています。結果的に、昨年については想定外ではありませんでした。自然災害に備えて積み上げてきた「異常危険準備金」を十分に確保していましたし、他の保険会社に負担の一部を引き受けてもらう「再保険」も効率的に対応できましたので、グループ全体では収益への影響をある程度抑えることができました。

 しかし、今の地球環境を考えると、災害が発生する頻度が上がることは覚悟しておかなければいけない。そしてわれわれは日本を中心に経営している以上、正面から自然災害に取り組んでいきます。だからこそ、事業や商品、地域でビジネスのリスクを今まで以上に分散しなければいけません。

海外M&Aを積極的に展開

── リスクの分散という観点では、海外のM&Aに積極的です。

小宮 02~03年ごろはグループ全体の収益に占める海外事業の比率は2~3%でしたが、十数年たって今年は計画ベースで47%になる見込みです。日本で自然災害が集中して起こる可能性がある中で、経営の屋台骨を崩すわけにはいかない。事故や災害は世界中で同時に起こるわけではないので、リスクを分散して海外ビジネスを拡大して経営基盤を強くする。そのためのM&Aです。もう一つは海外の収益機会をとりこんでさらに成長したいという思いもあります。

── 海外事業の方向性は。

小宮 欧米先進国とアジアをはじめとする新興国では少し戦略が異なります。米国では、われわれは08年にフィラデルフィアという会社を買収したことから本格的に展開しましたが、役員の賠償責任に対する保険などニッチ(すき間)で特定の顧客がいる領域から参入しました。現在はニッチな領域に注力しながら、他の領域へ展開するチャンスをうかがっています。

── 新興国については。

小宮 地理的分散を考えると海外事業は米国に偏っています。世界の損害保険市場のうち、アジアを含む新興国は20%以上ありますが、われわれの海外事業における新興国の比率はまだ10%に満たない状況です。私としても早く20%にもっていきたいと思っています。新興国ではタイや南アフリカに展開しています。

予防の領域にも展開

── 一方で国内の自動車保険は市場が縮小する方向です。

小宮 大きいトレンドとして市場の縮小は覚悟しています。しかし、自動車の事故がなくなるわけではないですし、自動車保険そのものがなくなるわけではないです。

 また、経済的損失があったときに補償する従来の保険の機能だけでなく、予防の領域や事故を減らす領域で、われわれが果たすべき役割はあると思っています。

── 具体的には。

小宮 現在、ドライブレコーダーを活用した「ドライブエージェントパーソナル」というサービスを提供しています。お客様のクルマに通信機能付きドライブレコーダーを取り付け、事故が起こった際に連絡をしたり、事故防止を支援したりします。例えば、急アクセルや車線を外した際には警報を鳴らして、ドライバーに注意を促します。さらに運転データを基に診断リポートも提供し、運転の問題点を指摘します。昨今問題になっている高齢者ドライバーに対しても、効果があると思います。17年4月から提供を開始し、22万人以上のお客様に利用してもらっており、もちろん私も利用しています。

── 国内の生命保険は、東京海上日動あんしん生命保険が事業を展開していますが、どのように育てていきますか。

小宮 生命保険は主に死亡したときの案件ですが、人生100年時代を迎えているので、商品の内容も、健康で元気で生きていくことをサポートする保険を重視しています。自動車保険と同じく、予防する領域でわれわれの役割があると思っています。

── 医療保険では「あるく保険」が話題になりました。

小宮 あるく保険は、1日8000歩以上歩くと、計測結果に応じて健康増進還付金を支払います。また最近では、日本のベンチャー企業であるリンクアンドコミュニケーション社、メディカルノート社と提携しました。前者は食生活のアドバイスを、後者は医療機関とのネットワークを生かして医療面のアドバイスを提供します。これらにより、お客様の健康の増進をサポートしていきます。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 32歳から41歳まで人事部門にいて、社員や会社のことを一番考えて仕事をしていました。人事制度改革や持ち株会社移行の準備に人事として関わりました。

Q 「好きな本」は

A P・F・ドラッカーや大前研一、G・ハメルの著作など、企業経営に関する本が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 家族と過ごす他、ランニングやスポーツジムで運動します。


 ■人物略歴

こみや・さとる

 1960年生まれ、私立麻布高校卒業、83年東京大学工学部卒業後、東京海上火災保険入社。2015年東京海上ホールディングス執行役員経営企画部長、18年4月同社専務執行役員海外事業総括、18年6月東京海上ホールディングス専務取締役海外事業総括などを経て、19年6月代表取締役社長に就任。神奈川県出身、58歳。


事業内容:保険持ち株会社として、損害保険会社、生命保険会社などの経営管理

本社所在地:東京都千代田区

創業:1879年8月

設立:2002年4月

資本金:1500億円

従業員数:4万848人(19年3月現在、連結)

業績(19年3月期、連結)

 経常収益:5兆4767億円

 経常利益:4163億円

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