新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 2019年の経営者

編集長インタビュー 馬立稔和・ニコン社長

馬立稔和 ニコン社長
馬立稔和 ニコン社長

金属3Dプリンターで光学の新機軸

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 5月に発表した中期経営計画では「光を使った工作機械」を成長領域に掲げました。

馬立 具体的な取り組みの第1弾が今年4月に発売した、レーザーを使った「金属加工用3Dプリンター」です。これで何が作れるのかというと、例えば自動車のエンジンから排ガスを吹き出すパイプ(排気管)があります。非常に複雑な形状をしているため、従来だとパイプを切断して溶接する必要がありましたが、当社が開発した金属3Dプリンターは1回の作業で作ることができます。

 同社の金属3Dプリンターは、金属の粉を特定のポイントに向けて吹きかけて、そこにレーザーを照射して粉を固めながら、設計データの形状を造形する。他社の従来製品に比べ、大きさで10分の1以下、重量で5分の1程度に抑えたという。

── 工作機械ではファナックなどの有力なメーカーがあります。この領域でニコンの立ち位置とは。

馬立 金属3Dプリンターは、光をレンズで集めて照射する仕組みが、主力製品である半導体製造用露光装置とよく似ています。パイプの製造以外で想定している用途として金型の製造があります。いまは熟練の職人による手作業で仕上げていますが、レーザーを使えば0・3マイクロメートル(1マイクロメートル=100万分の1メートル)といった単位で表面を削り取ることができます。

── ニコンが手掛ける工作機械の市場規模や売り上げの計画は。

馬立 従来にない分野なので、ユーザーには金属3Dプリンターの特徴を生かした製品を作ってもらい、新しい市場を開拓する取り組みが必要です。我々にとって挑戦ですが、大量生産から、個人の嗜好(しこう)に合わせた多品種で少量の生産を短期間に可能にするものづくりのパラダイムシフト(構造転換)を起こすことを狙っています。

ミラーレスに本腰

── カメラ事業はいまも中心ですが、市場は右肩下がりです。どのような戦略で臨みますか。

馬立 スマートフォンの影響でカメラ市場は急激に縮小しています。スマホと競合しないレンズ交換式カメラ市場は、一眼レフからミラーレスへと大きく切り替わろうとしているところです。率直にいって「フルサイズ」(センサーが大きい高級機種)のミラーレスは参入が遅れましたが、昨年発売した商品「Z7」はいろいろな賞も受賞し、高い評価を得ました。キヤノンやソニーと競合していますが、従来のニコンの地位を維持する必要があると考えています。

── 中期計画ではカメラ事業で安定的に200億円の営業利益を上げると掲げました。

馬立 コスト低減に注力します。調達コストを下げること、サプライチェーン(供給網)の再最適化を行います。もっとも重要な部品がレンズで、最新の技術を用いてレンズをより短工期かつ低コストで生産する改革を中期計画の期間中に実現します。

── 半導体製造用露光装置は一時期、稼ぎ頭でした。現在の市場の状況とニコンの取り組みは。

馬立 2年半前の構造改革で第一の課題でした。長年損失を出していたので、事業の進め方を大きく転換し、特定の顧客(米インテル)に製品開発を集中するようにしました。その効果もあって2018年3月期、19年3月期と黒字に転換し、いったんは安定したと考えています。ただ今後のことを考えて、露光機の性能を引き出す計測器の「リソブースター」など製品を広げていきます。

── 露光装置ではオランダのASMLの独走を許しました。要因は何だったのでしょうか。

馬立 00年ごろ、シリコンウエハーの直径が200ミリから300ミリに大きさが切り替わる時にうまく対応できなかったことが引き金になりました。微細化の技術力では劣っていなかったのですが、生産性や顧客の特性に合わせる点でASMLはうまく対応しました。

細胞培養の成長に期待

── 精密機器メーカー各社はヘルスケアに注力しています。

馬立 5、6年前から取り組んでいて、注力分野を二つに絞っています。一つは網膜の画像診断です。4年前に英国の診断機器メーカーのオプトス社を買収(当時の為替で478億円)しました。眼科医には非常に重要な製品で、この販売が柱の一つです。

 もう一つの柱が細胞培養で、長期的にはここが大きくなることを期待しています。アプローチは二つあり、一つは培養自体の受託です。スイスのロンザ社からライセンスを受けて、再生医療用の細胞の開発や受託による量産に取り組んでいます。もう一つは、培養の良否状態を観察する機器の販売で、当社が持つ顕微鏡の応用分野として広げる狙いです。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 半導体製造用露光装置の設計に没頭していました。

Q 「好きな本」は

A 最近では『両利きの経営』(チャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマン著)が印象深いです。新事業の開発と既存事業の強化の両立に関する指南書で、当社の課題に合う内容でした。

Q 休日の過ごし方

A 子どもの頃からクルマ好きで、愛車は1年前に購入したポルシェ911です。奥多摩など山道をドライブするのが好きです。


 ■人物略歴

うまたて・としかず

 1956年生まれ。ラ・サール高校卒業、東京大学大学院電気工学修士課程修了。80年4月日本光学工業(現ニコン)入社。2005年6月執行役員、12年6月常務執行役員、19年4月社長。福岡県出身、63歳。


事業内容:カメラ、半導体製造用露光装置など光学機器の製造・販売

本社所在地:東京都港区

設立:1917年7月

資本金:654億円

従業員数:2万917人(2019年3月末、連結)

業績(19年3月期、連結)

 売上高:7086億円

 営業利益:826億円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事