美術 高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの=石川健次
日本アニメをけん引した軌跡 並外れた影響力、独自性に迫る
1960年代から半世紀にわたって日本のアニメーションをけん引し続けたアニメーション監督なのは言うまでもない。アニメは門外漢、熱心なアニメファンでもない私の目には、宮崎駿と並ぶ日本アニメの両巨頭にも映る。昨年亡くなった高畑勲(1935~2018)である。本展は、その創造の軌跡に迫る。
熱心なアニメファンでもないと書いた。でも会場を巡るうち、そんな私でも見た作品が多いのに気づいた。ただ目にしたというのではない。シリーズなら全部、映画なら劇場で、と積極的に見た作品が、だ。古くは『狼少年ケン』に始まり、『アルプスの少女ハイジ』『赤毛のアン』『母をたずねて三千里』『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』、そして『パンダコパンダ』は子供が生まれてから一緒に何度も見た。並んだタイトルに同様の印象を抱く中高年は、少なくないのではないだろうか。
見た作品を思い浮かべながら、代表作に詳細に触れた展示を眺めつつ、高畑アニメの魅力を考えた。
太平洋戦争末期、親を亡くして2人だけで生き抜こうとした兄妹の悲劇的な最期を描く『火垂るの墓』は、私には最も印象深い作品だ。図版はそのワンシーン。この作品を語った高畑自身の言葉を図録から引用しつつ作品に触れると、「中有(ちゅうう)をさまよう兄妹の、内側から燃えて発光するような赤色をはじめ」「新しい表現に必要な色を模索し、調合し、生み出し、その新色を絵具屋さんに無理を言って量産してもらう」「とても採算に合わない、と尻込みする親方を、熱意で口説き落とす」。スタッフの力を借り、高畑は妥協せず貫く。
また『おもひでぽろぽろ』では、主人公が昔の自分を回想するシーンが、記憶のなかの情景という雰囲気を出すために白を多用した淡い色調で統一され、とりわけ画面周縁部分は白く飛ばしたような省略が施された。一方、大人になってからの現在のシーンでは徹底して細部を描き込むなど、かつてないレベルで写実性が追求されたという。
徹底したこだわり、過去のシーンをセピア色に彩るような映像表現の定型を避け、アニメーションにおける新しい表現を常に追い続ける姿勢など、革新者としての顔がすべての作品に、その隅々にのぞく。そうした高畑をアニメーション研究者の氷川竜介は図録にこう書く。
「彼以上の影響力を後世にあたえ、日本のアニメーション作品に独自性をもたらした存在は他に見当たらない」
その創造の軌跡に迫る本展は、言い換えれば高畑の並外れた影響力、独自性に迫る試みでもあるだろう。
(石川健次・東京工芸大学教授)
会期 開催中、10月6日(日)まで
会場 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
開館時間 午前10時~午後5時(金・土曜は午後9時まで/入館は閉館30分前まで)
休館日 月曜(8月12日、9月16日、同23日は開館)、8月13日、9月17日、同24日
問い合わせ 03・5777・8600
巡回先 2020年4月10日~5月24日、岡山県立美術館(岡山市)