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難航する英EU離脱 解散総選挙の可能性も 英首相の本音は再交渉=土田陽介

議会閉会に反対する市民のデモ=ロンドンで8月31日(Bloomberg)
議会閉会に反対する市民のデモ=ロンドンで8月31日(Bloomberg)

 10月末までに欧州連合(EU)からの離脱を目指す英国で、議会の解散総選挙が行われる可能性が高まっている。本稿執筆の9月3日時点で英下院で超党派の議員が離脱を3カ月延期する法案提出の動きを見せるのに対し、ジョンソン首相が解散総選挙を示唆した。10月14日の投開票を想定している模様だが、EUとの離脱交渉は難航が予想される。ジョンソン首相は8月28日、英下院を9月9日の週から10月13日まで閉会することも決めている。

 首相が議会を閉会するという展開は、ジョンソン首相が就任した7月の就任当初から取りざたされていた。メイ前首相による離脱交渉が不調に終わった大きな理由の一つに、首相と議会との関係があった。離脱という国難を目前にしても首相と議会とのコミュニケーションがうまくいかず、国としてまとまることができなかったのである。

 議会が邪魔をするならいっそ閉会してしまえばいい。豪快な発言で知られるジョンソン首相がこうした強引な手段に打って出ることは容易に予想ができた。当然のこと、この首相による反民主的な手法に対しては与野党を問わず多くの下院議員が反発しており、与党・保守党からの造反次第では内閣不信任が成立する可能性が高まっている。

 もっともジョンソン首相の本心は、あくまでEUに対して再交渉を求めることにあるのだろう。EUも10月末の離脱強行は回避したい選択肢だ。議会を閉会してその可能性が高まっているとあえて見せつけることで、EUから譲歩を引き出そうというジョンソン首相流の瀬戸際外交が今回の騒動から透けて見える。

 EUが再交渉を容認するなら、ジョンソン首相は10月末の離脱強行というブラフ(はったり)を使うだろう。メイ前首相との間で合意した協定案と内容がほとんど同じでも、新しい合意案を取りまとめられたらジョンソン首相の政治的な成果となり、支持者に対するアピールになるためだ。

「最低限の合意」へ

 とはいえEUが安易に再交渉に応じるとは考えにくい。そのためジョンソン首相は、EUとの間で通商関係を中心に最低限の合意を結んだ上でEUから離脱する「管理されたノーディール(合意なき離脱)」を目指すというのが筆者の見立てだ。この合意を取りまとめるために数カ月から半年程度、英国は離脱の期日の再延期をEUに要請しよう。

 最悪のケースは、ジョンソン首相の思惑が外れる形で英国が10月末にEUから離脱すること、いわばノーディールが「なし崩し的」に生じることに他ならない。このケースでは英国とEUの経済に大きな混乱が生じることは避けがたい。ジョンソン首相による議会閉会と総選挙の可能性という劇薬の効能はどう出るのか。

(土田陽介・三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員)

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