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週刊エコノミスト Online 挑戦者2019

安井佑 やまと診療所院長 「自宅でみとる」医療の要は人作り

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 来る多死社会、特に高齢者が激増する首都圏で、自分らしい最期をかなえる医療モデルを目指す。

(聞き手=黒崎亜弓・ジャーナリスト)

 在宅医療で有名な医師たちは、患者のSOSに24時間365日対応するスーパードクターです。素晴らしいですが、後進が続きません。

 僕は、インフラとしての医療をどう良いものに変えていくかに関心があります。自宅で自分らしい最期を迎えられる世の中にするために、質の高い医療を広く提供したい。質と量を担保するには、医師だけに頼るのではなく、患者や家族の思いをくみ取る役割を担う人作りが必要だと考えました。それが在宅医療PA(Phisician Assistant)です。

医師と患者のやりとりをPAが記録する
医師と患者のやりとりをPAが記録する

 やまと診療所では、医師1人とPA2人がチームになって患者宅を回ります。PAは医師の補佐として診療器具を渡したりするだけではありません。診療の際のやりとりを訪問看護師や介護のケアマネジャーに伝え、その人たちの声を医師に伝えて調整を担います。

 さらに、患者や家族と向き合って何を望んでいるのかを引き出し、たとえば旅行といった希望を実現させるために医師も含めて患者に関わる専門職を動かしていきます。

 PAがいることで医師は診療に専念できます。他の在宅診療所に比べて重症度の高い患者を多く診ていますが、医師が1日に回る件数は少し多いか同じぐらいです。2018年は279人を自宅でみとりました。

 病院に勤務していた頃、80代、90代で人生をまっとうしようとしている人に苦しい延命治療が延々と行われているのが悲しかった。医療者も家族も実は辛いのに、死なせてはいけないと思い込んでいる現状を変えたいと思っていました。

 東日本大震災の支援活動に携わったのをきっかけに13年、友人医師と一緒に在宅診療所を東京都板橋区と宮城県登米市に立ち上げました。2人で板橋と登米を週の半分ずつ行き来していましたが、医師が代わると患者が不安になることが起きました。

 最初はPAの役割を看護師に担ってもらいました。でも、彼女たちができたのは例外で、一般的に看護師はコミュニケーションのトレーニングを受けているわけではありません。

 医師もそうです。日本では患者に寄り添ってくれるというような期待値が高いですが、コミュニケーション能力はむしろ低いかもしれません。疾患を治療する技術職なんです。

 医師や看護師は持っている技術で生きていけますから、新しい能力を身に付ける必然性がありません。この道に入りたいと思う若者をゼロからPAとして育てる方が早いと思いました。現在、30人ほどいるPAの3分の2が異業種からです。4年間、試行錯誤して育成プログラムを作り上げてきました。

病院を作る理由

 21年には板橋区に病院を設立します。「病院を否定していたのでは」と言われますが、僕たちが作るのは「おうちにかえろう。病院」。家で死ぬことを、より分厚く支えるための病院です。

 今は疾患が見つかって入院すると、病気は治っても動けなくなって食事をとれなくなり、病院で死ぬことになります。僕たちが患者の生活視点で病院を運営することで、必要であれば入退院を繰り返しながら地域で安心して暮らしていけるというイメージを人々に持ってほしい。在宅医療と病院を組み合わせたモデルを示そうと思っています。


法人概要

事業内容:在宅医療

所在地:東京都板橋区

設立:2015年4月(法人)

スタッフ数:106人(医師、PA、その他含む、19年9月現在)


 ■人物略歴

やすい・ゆう

 1980年東京生まれ。2005年に東京大学医学部を卒業後、国保旭中央病院で研修。NPO法人ジャパンハートに所属し、07年からミャンマーで国際医療支援。杏林大学病院、東京西徳洲会病院勤務を経て、13年4月にやまと診療所を開業。15年に医療法人社団焔(ほむら)として法人化。

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