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NEWS 幼保無償化 根拠だったはずの「質」は置き去りに=渡辺敦司

子育て世帯からの期待は大きいが、教育・保育の向上については疑問が残る
子育て世帯からの期待は大きいが、教育・保育の向上については疑問が残る

 <10月1日スタート>

 10月1日から幼児教育・保育の無償化がスタートし、3~5歳のすべての子どもの幼稚園、保育所などの利用料が世帯の所得制限なしで無償化する。一方、0~2歳児については一律ではなく、住民税非課税世帯を無償化の対象とした。子育て世帯が無償化に期待を寄せる一方、待機児童の問題や保育士不足などの課題も指摘されている。総じて無償化への関心は高いが、肝心の教育・保育の「質」に関する議論が置き去りになってしまっていることを筆者として指摘したい。

 そもそも政府・与党が無償化の大きな根拠の一つに挙げたのが、1962年に米国ミシガン州で始まった「ペリー就学前計画」だった。同計画は、低所得層アフリカ系3歳児で知能指数(IQ)70~85の学校教育上リスクが高いと判定された子どもを対象に、質の高い幼児教育プログラムに参加したグループと、参加しなかったグループに分け、40歳になるまで追跡調査した。結果、前者のグループが学校で優秀な成績を収め、社会人になってからの高収入につながったばかりでなく、犯罪の減少にも貢献していた(図)。

 類似の調査は他にもあり、幼児教育は最も投資効果が高いとされる。かねて経済協力開発機構(OECD)から指摘されていたように、日本は就学前教育と高等教育の私費負担割合が各段に高い。そのため、公財政支出を増やすことは必ずしも的外れではない。

〈出所)「幼児教育無償化に関する関係閣僚・与党実務者連絡会議」(2013年3月)配布の参考資料より編集部作成
〈出所)「幼児教育無償化に関する関係閣僚・与党実務者連絡会議」(2013年3月)配布の参考資料より編集部作成

格差拡大の懸念も

 しかし、一律無償化の対象となる3~5歳児の就園率は、OECDのアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長が「(日本にとって)グッドニュース」と表現するほど、以前から高い水準を誇っていた。一方、0~2歳児に関しては、まだまだ就園率引き上げの余地があり、そもそも待機児童の解消自体が最も望まれる年齢層でもある。にもかかわらず、今回の無償化措置では住民税非課税世帯の子どもと限定し、一律無償化の対象外となった。

 幼児教育・保育の質の向上に関しては、小学校以降との連続性をより重視した新しい幼稚園教育要領と保育所保育指針が2018年度から実施・適用されている。感情をコントロールする力、人とうまく関わる力といった、IQなどでは測れない「非認知能力」や「社会情動的スキル」と呼ばれる忍耐力や自尊心を幼児期に育成する重要性が指摘されているが、これらの能力を伸ばし、質を向上するために財源が割かれているとは言い難い。 

 また、無償化の対象を、都道府県知事などの認可を受けていない保育園などにも広げたことで、質の低下に拍車が掛かる恐れもある。もともと認可保育園でも私立の場合は保育士の給与が安く抑えられ、結果として保育士の勤続年数が短くなるという構造的な問題がある。その上、今回の一律無償化による量的整備の拡大によって、保育士の確保自体が危うくなるようでは、政府・与党が目指す質の向上どころではない。

 さらに、一律無償化によって、低所得層は幼稚園、保育所などの利用料分を生活費や貯蓄の補填(ほてん)に、中所得層以上は学習塾などの学校外教育費に回す動きもある。むしろ教育格差の拡大を助長する懸念も拭えない。

(渡辺敦司・教育ジャーナリスト)

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