NEWS 関電幹部3・2億円授受 公益事業精神に背く悪質行為 原発推進の芽を自ら摘む=編集部
「社会の巨悪に立ち向かう地検特捜部としては、動かざるを得ないだろう」
関西電力の幹部20人が原発が立地する福井県高浜町の元助役(故人)から3・2億円の金品を受け取っていた問題で、東京地検特捜部に逮捕・起訴された経験を持つ会計評論家の細野祐二氏はこんな見通しを示す。
八木誠会長は859万円、岩根茂樹社長は150万円、他にも1億円を超える金品を授受していた役員がいたことが明らかになった。歴代の原発担当者が連綿と元助役から金品の提供を受けていた。
独占事業の電力業界を仕切るトップ企業(電気事業連合会会長会社)の幹部が、原発が立地する地元の有力者からバックマージン受領とも思われかねない行為が長年続いていた事実は重い。まさに諸悪の根絶を目指す地検特捜部の出番だ。
細野氏は「該当する幹部が関電を辞めたら、特捜部はすぐに逮捕するだろう」と自身の体験を踏まえて、予想する。10月2日の会見で、八木、岩根両氏とも辞任はかたくなに否定しており、原発を巡る刑事事件に早期に発展するのを避けようとしているようにも映る。
しかし、筆頭株主でもある大阪市の松井一郎市長は「バックマージンと疑われるようなプレゼントを受けた方々で、会社の信頼を回復できるとは思えない」と、関電経営陣の刷新を求めている。世論の強い反発もあり、続投困難→逮捕、刑事事件へと発展する可能性は十分にある。
高浜だけか
さらに、今回の不祥事は「日本の原発政策に打撃を与えた」と、原発政策に詳しい橘川武郎・東京理科大教授は警鐘を鳴らす。
原子力産業の永続性のためには、再稼働よりも原子炉の「リプレース(新増設)」が決定的に重要という橘川氏は、電力会社のなかで最も早く新増設を実施できる可能性があったのが関電だったと指摘する。
原発で最も重要なのは「危険性の最小化」だが、そのためには、できるだけ新しい原子炉であることが望ましい。また、世界では、安全性の観点から原子炉は「加圧水型」が主流だが、現在、日本で再稼働している9基の加圧水型炉はいずれも老朽化している。
今後、加圧水型で新増設できる可能性が最も高かったのが、実は関電の美浜原発(福井県美浜町)4号機だった。2011年の東日本大震災後に新設工事が中断した同機は、新増設の準備状況──例えば、必要な土地の確保、地元の了解などで最も進んでいた。
現在の安倍晋三政権は新増設の推進に積極的でないことから、新設は民間の原子力推進派の電力会社が主体となる。もし関電が、発電量の大きい美浜原発4号機の新設にこぎ着けることができれば、収益性が上がるだけでなく、それを皮切りに九州電力の川内(せんだい)原発3号機(鹿児島県薩摩川内市)、日本原子力発電の敦賀原発3、4号機(福井県敦賀市)などが続き、日本の原発産業が再び活性化する可能性があった。
しかし、今回の不祥事で関電は自ら新増設への道を遠のかせたことになる。「金品を受け取った関電幹部は、本来、原発の突破口を切り開く役目を担うはずだった。原発政策へのダメージは大きい」(橘川氏)。
金品授受問題が高浜町だけで終息するかも怪しい。「関電の大飯と美浜という残り二つの原発でも、大なり小なり同じことが起きている可能性がある」(関西財界関係者)。地方ほど地元経済が原発産業に依存する比重は高くなる。そこには「町の仕切り屋」がいて原発事業者から顧問料を得る仕組みができているともされる。この構図は、「他の電力会社と原発立地企業との間にもあるのではないか」という疑心の目が向けられている。
市場の視線も厳しい。関電株は不祥事が発覚する前の1428円(9月25日)から2回目の会見を開いた10月2日には1266円へと急落した。
東京電力福島第1原発事故以降、深まっていた電力会社、原発への不信は一層深まった。
(編集部)