映画 T-34 レジェンド・オブ・ウォー 本物の戦車を主演俳優が操縦 リアルな描写で迫る戦闘映画=野島孝一
T─34とは、ソ連軍が誇った強力な戦車のことだ。「太陽に灼(や)かれて」のニキータ・ミハルコフ監督が製作に回り、アレクセイ・シドロフが監督したこの映画、戦車好きなら狂喜乱舞する面白さに満ちている。ロシアでは興行収入40億円、800万人が見たという大ヒット作だ。
モスクワ郊外の雪原で、炊事用の車両に乗った2人のソ連兵がナチスドイツの戦車の砲撃からまんまと逃げおおせる。砲撃されるとすぐに急ハンドルを切り、難を逃れた。
運転したニコライ(アレクサンドル・ペトロフ)は、基地に戻り、残された最後の戦車T─34の車長に任命される。たった1台の虎の子戦車を物陰に隠しておき、押し寄せるドイツ軍戦車の群れに抵抗したのだ。ドイツ軍戦車隊はエリート将校のイェーガー大佐(ヴィンツェンツ・キーファー)が率いている。肉を切らせて骨を断つ壮絶な戦車戦。多数の敵戦車を撃破したT─34はイェーガーの3号戦車と一騎打ちになり、ニコライは敗れてイェーガー大佐の捕虜になる。
普通の映画ならこれで終わってしまうほどのボリューム感。だが、ヤマ場はこれからだ。
3年後、ドイツの捕虜収容所でイェーガーはニコライに再会する。ニコライは、拷問されて半死半生だった。イェーガーはナチスの戦車隊の訓練のためにT─34との実戦訓練を計画。ニコライはその車長に選ばれ、捕虜の中から戦車兵を選りすぐって実弾なしでドイツ軍戦車と演習することになった。ニコライはこの機会を利用して、T─34でチェコへの大脱走を企てる。
戦車の映画と言えば、ヘンリー・フォンダ主演の「バルジ大作戦」(1965年)、ジョージ・C・スコットがアカデミー賞主演男優賞に選ばれながら受賞を拒否した「パットン大戦車軍団」(70年)、ロシア映画の「ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火」(2012年)、ブラッド・ピット主演の「フューリー」(14年)などを思い出す。戦車の破壊力こそ映画の醍醐味(だいごみ)という気がする。
捕獲されたT─34が演習中に脱出を図ったという事件は本当にあったらしく、「鬼戦車T─34」(64年)という映画がソ連時代に作られている。今回はニコライと捕虜の女性通訳との恋も入れて、ぐんとドラマチックな映画になった。
壮烈な戦車戦と、戦車を使った敵中横断大脱走。このクライマックスを完璧に取り込んだ。しかも現存する本物のT─34を俳優が実際に操縦しての撮影。戦闘描写もリアルで、砲弾命中の衝撃波で耳がキーンとなるところまで再現されている。
(野島孝一・映画ジャーナリスト)
監督 アレクセイ・シドロフ
出演 アレクサンドル・ペトロフ、イリーナ・ストラシェンバウム、ヴィンツェンツ・キーファー
2018年 ロシア
10月25日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー