チャイナウオッチ 膨張する“シルバーケア市場” 日本の医療・介護産業に商機=真家陽一
「我が国の医療・介護は、長期にわたって政府の社会保障に過度に依存してきたが、国民のニーズを満たすには程遠い」。李克強首相は9月11日、国務院(内閣)常務会議でこう指摘し、医療と介護の連携を強化すると決めた。審査・認可手続きの簡略化、介護・医療機関の協力奨励、医療・介護保険の発展など、5項目の措置を打ち出した。
総務省によると今年4月現在、日本の65歳以上の人口は3575万人で高齢化率は28・3%。他方、中国は急速に少子高齢化が進展しているとはいえ、国家統計局によれば2018年末現在、高齢化率は11・9%にとどまる。国連の人口予測では、中国の高齢化は日本よりも約30年遅れており、現在の日本の水準に達するのは50年以降とされる。とはいえ、中国の高齢者人口は1億6658万人で、すでに日本の総人口を上回り、医療・介護問題への対応は待ったなしの状況だ。今般の常務会議の決定は、こうした実情を反映したものと言える。
そんな中国で、日本の高齢者産業の商機が拡大しつつある。三井物産は6月、中国の国有複合企業「華潤集団」などと病院経営やヘルスケア関連の事業に投資する10億ドル(約1080億円)規模のファンドを設立すると発表した。高齢化や公的保険制度の充実で医療費は急速に伸び、30年には200兆円にも膨らむとされる一方、病院などのインフラは質・量ともに追いついておらず、巨大市場の取り込みを狙う。
伊藤忠商事は10月、日本の病院経営のノウハウを、出資する中国の総合病院グループ「北京世紀康瑞病院」に提供するため、藤田医科大学、徳洲会と提携したと発表した。中国政府は医療費を抑制しながらも増える需要に対応するため、民間資本活用や民営病院の拡充を支援しており、日本の医療機器やサービスを中国市場に広めるきっかけになる。
追い風となってきたのが日中関係の改善だ。李首相が18年5月に訪日した際の日中首脳会談では、少子高齢化対応での新たな協力分野の開拓で一致。同年10月には北京で第1回「日中介護サービス協力フォーラム」が開かれた。第2回は今年9月26日に東京であり、日立製作所が中国の企業や大学とヘルスケアや介護で協業を進めることで合意した。
具体的には、日立が出資する北京のスタートアップ企業「京大北京技術」と、人工知能(AI)を使って医療・介護の情報を統合・管理する事業の実証実験を始める。また、清華大学と共同で、認知症予防など高齢化に伴う課題解決につながる技術を研究・開発する。
介護保険の全国導入控え
中国政府は20年までに介護保険制度の全国導入を目指しており、介護保険が適用されれば、施設利用料や介護器具のレンタル料金などの利用者負担が減り、「シルバーケア」の市場が爆発的に広がる可能性がある。日本企業にとっては商機だ。
日本で介護保険制度が施行されたのは00年4月で、高齢化の進展度合いを考慮すれば決して遅くはない。少子高齢化という日中共通のピンチをチャンスに変える日本企業の今後の取り組みに期待したい。
(真家陽一・名古屋外国語大学教授)