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週刊エコノミスト Online 食肉大争奪

牛丼に必須の「牛バラ肉(ショートプレート)」 日本が中国に買い負ける日=高橋寛

いずれ高根の花に?
いずれ高根の花に?

 ショートプレートは、牛バラ肉の部位のひとつで、豚バラの三枚肉のように、厚い脂肪と硬い赤身肉が交互に層をなしている。そのスライス肉は、牛丼や食べ放題の焼き肉などの需要が高く、安価である。主要生産国である米国では、過去にはハンバーガー向けのひき肉材料に用いられたものの、脂肪が多すぎたため厄介者との位置づけであった。1970年代に日本が本格的に牛肉を輸入し始めた時に、米国産牛ショートプレートは低価格の部位だった。 特集:食肉大争奪

 米国産の牛肉のほとんどは日本と同様、穀物肥育牛である。牧草肥育が主流で、赤身が多く、風味が異なる豪州、ニュージーランド、欧州産牛肉に比べて、脂肪が多く、穀物風味であることから牛丼用食材にはもってこいであった。

 90年代以降は牛肉輸入自由化、円高などの追い風もあり、牛丼チェーンの店舗数増加、コンビニ弁当の普及とともに日本の中食・外食にはなくてはならない部位として定着した。米国産ショートプレートは、90年代までは生産量のほとんどが日本向けに輸出されていたのである。

 しかし2000年代になると日本食、すなわち牛丼やシャブシャブ、すき焼きが海外で広く普及し始めたことから中国や東南アジアの需要が増加してきた。そして、近年、一部では、中国との買い付け競争が発生する事態になっている。

(出所)USDA FAS PSD ONLINE CWEより筆者がBeef Cuts baseに換算して作成
(出所)USDA FAS PSD ONLINE CWEより筆者がBeef Cuts baseに換算して作成

香港迂回ルート

 中国のショートプレート需要は、外食チェーンの業界動向からうかがえる。中国の外食企業(売上高ベース)のトップ10のうち、牛肉の消費が大きい企業として、「小肥羊」など火鍋関連4社、「マクドナルド中国」などハンバーガー関連2社が入っている。火鍋店では牛シャブシャブも人気メニューの一つで、これに最もよく使用されるのが、米国産ショートプレートなのである。

 トップ10に4社の関連企業がランクインする事実は、火鍋が流行しており、中国全土にショートプレートを食材とする店があまた存在することを意味する。牛丼の吉野家も中国での多店舗展開に成功していることから、ショートプレートの需要は増加傾向だ。

 中国の牛肉輸入は11~18年に51倍(2万トン→102万トン)、香港と中国の合計では11倍(12・7万トン→140・6万トン)と著しい伸びを示している(図1)。経済成長によって中国人の所得が増加し、牛肉消費が伸びているためである。日本の牛肉輸入量は18年で62万トンであり、中国・香港輸入量合計は、既に日本の2・3倍に上る。

(出所)USMEF EXPORT STATISTICS Beef Cuts baseより筆者作成
(出所)USMEF EXPORT STATISTICS Beef Cuts baseより筆者作成

 ところで、10~14年は香港の輸入数量が中国全体より大きい。実は香港に入った牛肉は、境界を越えて中国側の広州に流入しているのである。このことを示唆するのは、米国から中国・香港への牛肉輸出量の推移だ(図2)。米国から香港の輸出量は、12年は6・1万トンだったが14年には14・6万トンに急増し、15年以降は10万~12万トンで推移している。そして、中国への輸出量は0~0・7万トンと桁違いに少ない。

 中国への輸出量が少ない理由として、米中貿易戦争で中国が米国産牛肉の関税を引き上げたためとする見方もあろうが、この状態は米中貿易戦争以前から続いている。実のところは、米国が肉牛に対して使用許可している成長ホルモンを接種した牛肉を、中国が輸入禁止しているためなのである。とはいえ、中国では火鍋や牛丼向けに米国産の穀物肥育ショートプレートの需要は大きく、先述の通り香港経由の迂回(うかい)輸入が一般的になっていると十分考えられる。

(出所)農畜産業振興機構資料より筆者作成
(出所)農畜産業振興機構資料より筆者作成

日米貿易協定の恩恵小

 このような中国の牛肉消費は、日本国内の米国産ショートプレート価格にどのような影響を及ぼしてきたのであろうか。卸売価格をたどると、14年10月にそれまでの2倍近い1キロ当たり1080円まで暴騰し、その後暴落している(図3)。その理由は12~14年の香港向け輸出量の急激な増加を見れば一目瞭然である。すなわち、中国が香港の迂回ルートを経由して米国産牛肉を12年の2倍以上輸入し、買い付け競争が発生したからに他ならない。

 その後、14年後半から16年にかけて卸売価格がつるべ落としに暴落した。これは、習近平政権の規律重視方針を受けて、迂回ルートが閉鎖され、中国の需要が遮断されたためである。当時は、香港に数百コンテナが滞留した。その後、米国の香港向け輸出量を見る限りにおいては、迂回ルートは再開されているもようだ。

 今後の日本国内の米国産ショートプレートの卸売価格は、やはり中国の消費動向に大きく左右されることになるだろう。中国では、アフリカ豚コレラによって豚肉価格がまだ高騰するとみられ、比較的価格が安い米国産ショートプレートに買い付けが向いてくる可能性がある。そうなれば、日本との買い付け競争が激化する公算が大きい。

 なお、10月に署名された日米貿易協定により、20年1月に牛肉の関税が従来の38・5%から26・6%に下がる。約12%輸入コストが下がることは日本の消費者にとっては朗報ではあるが、中国との買い付け競争激化による国際相場の上昇いかんによってはショートプレートの国内相場は、逆に上昇する可能性もある。そうなれば、中食メーカー・外食チェーンやハム・ソーセージメーカーには原料高となってのしかかる。

(高橋寛・ブリッジインターナショナル代表)

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