広がる新型肺炎 GDP5300億円下押しも 五輪前の日本経済に及ぶ悪影響=永浜利広
中国湖北省武漢市で確認された新型コロナウイルス(新型肺炎)による肺炎は、中国から海外へ飛び火し、世界各国が感染の拡大に警戒を強めている。日本でも武漢市からのツアー客を乗せたバスの運転手(60代男性)の感染が確認された。
新型肺炎の流行は、感染を避けるために旅行や出張を控える動きが広がることなどを通じて、日本経済にも悪影響を及ぼすと考えられる。
2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の事例を基に、新型肺炎が流行した場合の日本経済への悪影響を試算したところ、名目GDP(国内総生産)を約5270億円押し下げる結果となった。
これは、年間の名目GDPの約0・1%に相当する。押し下げ効果はSARSの時(5359億円減)と同等だが、今回は当時よりインバウンド(訪日外国人)消費が5倍以上に拡大していることから、特に訪日観光客の消費を含むサービス輸出の減少が大きくなることが予想される。
訪日客減の影響大
試算は、家計消費やサービス輸出入の減少を推計して行った。SARSと同様に旅行需要が減少すると仮定すると、家計消費だけで約4470億円の下押し効果がある。
さらに、インバウンド需要が減少すると、サービス輸出の減少という経路を通じても日本の名目GDPに悪影響が及ぶ。SARSが流行した当時からのインバウンド需要の増加を勘案したうえで、今回も同程度の影響が出現するとすれば、サービス輸出はインバウンド需要の減少で約3414億円下押しされることになる。
一方、日本居住者の海外旅行の需要が減少すれば、海外での支払い減を通じてサービス輸入の減少につながる。そこで、この影響についても同様に試算すると、今回SARS並みの影響が出た場合は、旅行収支の支払いが約2614億円減少することになる。
SARSの時に比べ、インバウンド消費の増加に伴うサービス輸出の落ち込みが格段に大きいのが特徴だ。
これまでのマーケットは、米中摩擦の一時休戦や海外経済の持ち直し期待などもあり、株価を中心に堅調に推移してきた。しかし、国内経済を見ると、増税や原油価格の上昇といった国民負担の増加が懸念材料となっている中、中国で発生した新型肺炎の悪影響も懸念材料となりつつある。
従って、増税などで景気が低迷する中での今回のウイルス拡大は、春節(旧正月)のインバウンドや半年後の五輪に期待していた日本経済にとって最悪のタイミングといえる。SARSは発生から約8カ月で終息したが、新型肺炎がそれよりも長期化すれば、さらに影響は大きい。SARSと比べて感染が大規模になる場合も想定以上の悪影響を及ぼす可能性がある。
(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)