呉・和歌山の高炉休止は日鉄・JFE「大合理化」の序章にすぎない=細川良一
鉄冷えの再来で、鉄鋼大手が大合理化へと動き出している。最大手の日本製鉄、2位のJFEホールディングスは共に2020年3月期決算の見通しを下方修正し、期末配当の見送りを発表。同時に製鉄所の設備休止計画を公表した。しかし両社の合理化策は序章に過ぎす、さらに踏み込んだ能力削減を迫られている。
日鉄は、子会社の日鉄日新製鋼が運営する呉製鉄所(広島県)で2023年度までに高炉を含む全ての設備を止め閉鎖する。前身の新日本製鉄時代、1985年のプラザ合意による円高不況で釜石製鉄所(岩手県)などの高炉を休止したことはあったが、圧延加工設備は残してきた。高炉を持つ製鉄所を丸ごと閉鎖するのは、同社でも初となる。
さらに旧住友金属工業が関西の拠点としてきた和歌山製鉄所(和歌山県)で2基ある高炉のうち1基を22年度に休止する。高炉は稼働から約20年が寿命とされ、約500億円をかけて改修し再利用する。今回止める高炉は09年にIHIが納めた比較的若い設備で、早々と見切りをつけたことになる。
JFEは圧延設備を休止
JFEも、鉄鋼事業会社のJFEスチールで東日本製鉄所の京浜地区(神奈川県)と千葉地区(千葉県)の圧延加工設備を一部休止することを決めた。高炉は今回の対象外だが、過剰能力の削減に手を付けざるを得なくなっている。
鉄鋼大手の業績は急速に悪化している。主因は中国の鉄鋼増産が引き起こす、いびつな資源価格の値上がりだ。
中国では、米中貿易摩擦の影響を緩和しようと公共事業が活発に行われ、建設資材として鋼材の需要が喚起されている。世界鉄鋼協会によると、19年の中国の粗鋼生産は前の年から7630万トン増え、過去最高の9億9630万トンだった。日本の10倍にあたる。
これが原材料となる鉄鉱石の価格上昇を招き、日鉄やJFEはコスト高に直面。これを鋼材価格へ転嫁しようにも、自動車や造船など需要家から理解はなかなか得られにくい。自動車業界も業績は急降下しており、独り勝ちとされるトヨタ自動車すらコネクテッドカーや自動運転、シェアリング、電気自動車(EV)など次世代自動車「CASE」への対応で財布のひもは固いままだ。
造船業界は手持ち工事量が2年分を割り、三菱重工業は長崎造船所香焼工場を大島造船所へ売却、ジャパンマリンユナイテッドは舞鶴事業所の大幅縮小と今治造船との提携に動くまでに追い込まれている。
こうした外部環境に対し、日本の鉄鋼メーカーが打てる対策は限られる。それが固定費の削減につながる設備休止だ。日鉄は一連の構造対策で粗鋼の生産能力を500万トン減らし、年間1000億円の収益改善を見込む。しかし日鉄の今の粗鋼生産能力5400万トンに対し、今年度は4800万トンの見通しで、仮に500万トン減らしても余裕が残る。
少子高齢化で日本の鉄鋼内需が目減りし、海外ではトランプ大統領が繰り出す鉄鋼の保護主義、中国企業が計画している臨海部や東南アジアでの新製鉄所によって輸出も減少していけば、さらなる合理化が避けられない。
呉や和歌山の高炉休止で完結と目されないのは、今後の見通しも厳しいからだ。それは遠い将来の話でもない。新型コロナウイルスによる肺炎の影響で中国の経済活動が停滞しており、だぶついた鋼材が輸出されるシナリオも急浮上している。
次は鹿島・名古屋、千葉・京浜
日鉄は20年3月期で4000億円の減損損失を計上。過去最大の4400億円に上る最終赤字になる見通しを公表した。減損は閉鎖する呉製鉄所だけでなく、輸出比率が高い鹿島製鉄所(茨城県)で1500億円、自動車メーカーへの販売が多い名古屋製鉄所(愛知県)で1200億円を計上している。
減損で今後の固定費は軽くなるが、裏を返せばそれでも収益が改善しなければ旧住金の象徴的存在だった鹿島、そして旧新日鉄でも聖域視されてきた名古屋すら閉鎖されかねない。
一方のJFEは世界トップクラスの規模とされる西日本製鉄所(広島県・岡山県)に増強投資を集中させており、高炉休止は東日本の千葉や京浜が候補となるだろう。(ジャーナリスト・細川良一)