ソフトバンクGに「物言う株主」 米ファンドのエリオットが3%取得=田中道昭
米ファンドのエリオットが3%取得 AI企業への投資戦略に影響も
米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが、ソフトバンクグループ(SBG)株式を25億ドル(約2700億円)以上取得したことが明らかになった。ガバナンス向上、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の透明性の高い投資決定、自社株取得などを通じて株価を高めることを求めている。SBGの孫正義社長は、2月12日の2019年4~12月期決算会見で「2週間ほど前にエリオット側と面談した。さまざまな意見を歓迎したい」と述べた。
エリオットは1977年創設。一定数の株を保有して、経営改善を企業に求める「アクティビスト・ファンド」の一つで、「世界で最も恐れられている投資家」と言われるポール・シンガー創業者兼共同CEO(最高経営責任者)が率いる。財務危機に陥った企業の株や債券などに投資して、再建した場合は多大な収益を上げる「ディストレス投資」や、金融商品の価格差を利用した売買で差益を得る「アービトラージ取引」を主な投資手法としてきた。アルゼンチン国債のデフォルト(債務不履行)から15年続いた同国政府との争いでは、大幅譲歩を引き出して和解を勝ち取り、大きなリターンを上げている。
エリオットの投資規模は、SBGの時価総額の約3%とされる。3%で行使できる権利は、形式的には株主提案権、株主総会招集請求権、会計帳簿閲覧権などに限られるものの、エリオットの手法や影響力からすれば、メディアなどを通して、経営上の要求を受け入れさせる影響力を持つことも可能であろう。
スプリント合併へ
SBGの「人工知能(AI)群戦略」への影響については特に注視する必要がある。AI群戦略とは、AI関連企業に特化した投資を行う方針の下、各事業領域のトップ企業へ投資し、同志的、かつ緩やかに結合させ「群」を構成することでシナジーを創出する投資戦略である。この戦略の中には、シェアオフィスの米ウィーワークのように、巨額損失や追加支援に追い込まれた投資先もある。
しかし、エリオットは対照的に、短期的リターンを追求し、多角複合的な事業展開によって個々の事業の価値が下落する「コングロマリット・ディスカウント」の解消を求める投資戦略を取る。SBGの群戦略は人的交流や情報収集においては一定の成果を上げてきた中核的戦略であるだけに、根本的部分で価値観が異なる「物言う株主」登場の影響は、経営戦略全体にも及ぶと予想される。
2月11日には、SBG傘下の米通信子会社スプリントと、米通信会社Tモバイルの合併が米当局の承認を実質的に得た。スプリントは持ち分法会社になり、SBGはさらに投資会社の性格を強める。投資姿勢に関する株主との対話の重要性が増すことになるだろう。
SBGには、株主以外のステークホールダー(利害関係者)に対する利益向上も求められている。米国では最近、SBGに対して社員の待遇や企業文化への批判も見受けられる。グローバルな投資市場でのSBGの課題が、ブランド価値回復となっている中、新たな課題が突きつけられた。
(田中道昭・立教大学ビジネススクール教授)