教養・歴史書評

『中国人は日本の何に魅かれているのか 日中共存の未来図』 評者・田代秀敏

著者 近藤大介(『週刊現代』特別編集委員) 秀和システム 1500円

コロナ禍後の唯一の希望 「新たな関係作り」を提案

「日本の経済は、中国の人たちが来る前提でまわっていたのである」

 小説家の林真理子氏が『週刊文春』3月26日号で述べたこの意見に反対する人はまれだろう。事実、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、中国からのインバウンド(訪日旅行)需要も中国への輸出も激減した途端、日本企業の経営難や廃業・倒産が相次いでいる。

 しかしパンデミックが収まったら、「あなたの近くにも、『日本が大好きな中国人』が来ることでしょう」と、流ちょうな中国語を駆使し、30年にわたって中国を取材してきた著者は展望する。

 日本経済のV字回復につながる唯一の希望であるこの展望を検証しつつ、本書は中国との「新たな関係作り」を提案する。

 中国人の日本への憧れは「日本製品は安心して使え、日本の食品は安全で、日本へ行くと心の癒やし・慰めになる」という「安心・安全・安慰」にあると著者はいう。

 この「三つの安」を、長きにわたって中国人に与え続けてきた日本を中国人は大好きであることが、日本の料理、酒、文学、マンガ、アニメが中国人に愛好されている現場の描写を通じて示される。新宿の中古ブランド品店での1人で3280万円の「爆買い」をめぐるくだりには圧倒される。

 中国国内市場の巨大さを象徴するように、中国の映画館のスクリーン数は、18年に米国を抜き、世界最大の6万79となった(中国国家統計局調べ)。

 日本はこの数字が3583である(19年末、日本映画製作者連盟調べ)。

 そのため、岩井俊二監督の最新作「ラストレター」は興行収入が73日間で7・4億円(「20年映画興行収入ランキング」)であるのに対し 、その中国版『你好、之華』は6日間で9・1億円である(「中国大陸部映画興行週間ランキング」)。

「21世紀の最先端社会」に生きる中国人にとって、「古き良き20世紀」に立ち返れる日本は「20世紀のまま」であるからこそ、「中国はいつまた動乱の時代を迎えるかしれない。安全な日本に投資したい」 と中国人は考えるのだという指摘は衝撃的だろう。

 一方で、アリババ(阿里巴巴)とファーウェイ(華為)とが日本企業をどれだけ必要としているのかを描いた最終章「日本の技術は中国企業の生命線」は、日中の近未来が「相互補完型」であることを示している。

 本書は、パンデミック終息後の企業経営の最良のヒント集である。

(田代秀敏、シグマ・キャピタルチーフエコノミスト)


 こんどう・だいすけ 1965年生まれ。東京大学卒。『現代ビジネス』中国問題コラムニストのほか、明治大学国際日本学部講師を務める。著書に『ファーウェイと米中5G戦争』『習近平と米中衝突』など。

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