地形の成り立ちで決まる不動産価値/42
不動産の被災リスクを決める上で地盤や地質は重要な要素だ。被災大国日本の不動産価値は地震や大型台風などの被災リスクに応じて決まるように変化している。台風による崖崩れはもちろん、地震が発生した際の被害の大小は、震源地からの距離だけではなく、地盤の強弱や地質に大きく左右される。
東京の地形は「台地」と「低地」に分けられる。荒川から多摩川の間に広がる武蔵野台地は10万年以上前にできた古い土地だ。1万年前の最終氷期のころ、海水面は現在よりも50〜60メートルほど低く、東京湾はほとんどが陸地だった。現在の台地の姿は、最終氷期以前に形成された地盤が河川の浸食により削られてできた。
およそ7000年前、縄文時代になると地球は温暖になり、海水面は一気に上昇した。海岸線は内陸部にまで深く入り組む。この縄文海進により、海水面が現在よりさらに2〜3メートルほど高くなり、低地部は海に沈んだ。千葉県・埼玉県の内陸部でしばしば貝塚が発見されるのはこのためだ。固い地盤の上に、河川が運んできた土砂が年月をかけてゆっくりとたまり、地盤が脆弱(ぜいじゃく)な沖積層が形成された。
東海道線が境目
その後、海水面が低下したことや、土砂の堆積(たいせき)により、海岸線は再び後退していくが、およそ6000年前は首都圏東部をはじめ、23区の大半はまだ海だった。港区では現在、JR東海道線が通っている場所が明治時代までの海岸線であり、現在でも台地と低地の境目となっている。低地は主に荒川、江戸川に沿って、都内東側から埼玉県まで続いていく。
沖積層が厚い江東地区は、地盤沈下によって海水面よりも地表が低い海抜ゼロメートル地帯となる。逆に沖積層が薄い日本橋から銀座にかけての地域はいまでも地盤が強い傾向にある。こうした地形面の状況は、葛飾区の「葛飾区史」のホームページなどで確認できる。
このような土地の成り立ちを、現代社会に住む私たちはすっかり忘れてしまっている。しかし、今年も海面温度が上昇することにより、昨年の台風15号や19号クラスの災害が発生する可能性が高い。また首都直下型や南海トラフなどの大地震はそう遠くない将来必ずやってくる。
実際に被災リスクが将来の不動産価格を左右する動きも見られる。楽天損害保険は今年4月から、高台など被災懸念が低い地域に居住する契約者の保険料を基準より1割近く下げる。その一方、川沿いや埋め立て地などに住む契約者は保険料を3〜4割高くする。
今後は被災リスクのある地域では、住宅ローン貸し出し時の担保評価を50%とするなど、不動産評価に差をつける動きはますます加速するだろう。
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立