中銀の政策は長短金利操作へと向かう=愛宕伸康
オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は3月18日、臨時の理事会を開き、新型コロナウイルスにより経済や金融システムが重大な影響を受けているとして、政策金利を0・25%に引き下げるとともに、3年物国債利回りにも0・25%程度の目標を設定した(図1)。短期金利と長期金利(3年)を基点とするイールドカーブターゲット(YCT)である。
狙いは日銀のイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)と同じ、長期金利の安定化だ。日銀の場合、2016年に導入した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が、国内投資家の「利回り追求」を通じて長期金利を極端に低下させたことが背景にある。同年9月、10年物国債利回りにゼロ%程度の目標を設定し、超長期金利をプラスに維持した。
RBAの声明文には、長期金利が歴史的な低さになったこと、金融指標のベンチマークとして重要な役割を担う国債市場の機能が損なわれていることが記されている。なぜ3年なのか。フィリップ・ロウ総裁は記者会見で、そのゾーンが多くの企業の資金調達に影響を与える点、政策委員会の政策金利見通しと整合的である点に触れた。後者は今の低金利を今後3年続けるという意向を示唆したものだが、重要なのは、RBAが0・25%を政策金利の事実上の下限値とみなしている点だ。マイナス金利政策には反対の立場で、追加緩和が必要になった場合は、3年という対象年限を長期化させることが有力な選択肢になる。
ゼロ金利下の緩和手法
実はこれ、かつて米連邦準備制度理事会(FRB)が検討していた手法に似ている。10年10月、量的緩和第2弾が導入される直前、FRB内ではゼロ金利政策が続く中、さまざまな緩和手法が検討された。その一つが、2年物国債利回りに0・25%の目標を設定するYCTだ。追加緩和が必要な場合は対象年限を長期化させる。現在、再びのゼロ金利政策下で、FRBは新たな金融緩和の枠組みを検討中だ。彼らもマイナス金利政策には反対であり、当時の案が実行に移される可能性は十分ある。
各国の財政赤字が未曽有の水準に拡大するのは避けられない情勢だ。米国でも政府債務残高が第二次世界大戦時を上回る可能性がある(図2)。だが、感染終息まで対策を惜しむべきではない。売り上げの蒸発は企業や個人の力ではどうすることもできない。政府債務の膨張は覚悟すべき問題である。終息後、好むと好まざるとにかかわらず、金融政策の軸足は長期金利の安定化に向かう。政策手段がYCCやYCTに収れんしていくのは必然である。
(愛宕伸康・岡三証券チーフエコノミスト)