スベン・パリス ゆず兄弟 創設者・共同最高経営責任者 文化に根差したブランドを構築
多国籍企業に「それぞれの国の文化に根差したブランド構築」をアドバイスし、急速に業容を拡大している。
(聞き手=稲留正英・編集部)
日本で事業展開する外国企業の中には、日本の文化的な背景をよく理解していないために、商品やサービスの売り上げを伸ばすことができないところが少なくありません。創設メンバーの我々3人をはじめ、当社の社員は多文化の経験・経歴を持っており、その橋渡し役を務めます。
当社がコンサルティング業務を提供しているのは、欧米の大手食品、飲料、外食、IT企業などです。その一つに、カプセル式のコーヒーと抽出機械でエスプレッソコーヒーを提供するネスレネスプレッソ社があります。日本ではエスプレッソコーヒーを飲む習慣がなく、売り上げは伸び悩んでいました。
17年、同社から依頼を受け、市場調査したところ、日本は、手間ひまをかけて手でいれる「ハンドドリップ」のコーヒーが好まれることが分かりました。成果物としてのお茶そのものではなく、どのようにいれるかというプロセスを重視する日本の「お茶」文化と同じです。一方、欧州のエスプレッソ文化は、「機械に任せた方が、短時間に良いコーヒーができる」という考えに基づきます。
我々の提案を受け、ネスプレッソの日本法人は従来の米俳優ジョージ・クルーニーさんが登場するCMを、ネスプレッソのコーヒーカプセルの由来を農業生産者にまでさかのぼって伝える内容に変えました。また、直営店では、カプセルの中身を来場者に見せるように工夫しました。機械とカプセルは従来と同じですが、消費者とのコミュニケーション方法を変えた結果、日本での認知度を大きく高めました。
あるハンバーガーチェーンでも、大きな成果を上げました。この会社は、原材料に由来する品質問題から、日本で顧客離れを引き起こしました。我々は商品の安全性を大前提に、品質の良さで競合他社に差をつけようと提案しました。市場調査ではサラダのレタスの新鮮さが消費者に高品質をアピールするポイントの一つだと判明しました。
スタッフの扱いも大事
日本では、提供される商品と同様に、スタッフの扱いも大切です。スタッフが気持ちよく働いていないと、顧客は出される商品・サービスもいいかげんではないか、と考えます。そこで、「顧客だけでなくスタッフも大事にします」というコミュニケーションを店頭のポスターなどで展開しました。これらの試みにより、同社は消費者の信頼と売り上げを回復させることに成功しました。
日本には、外資系や国内資本のコンサルティング会社や広告代理店がたくさんありますが、顧客は自国企業が多く、事業展開する国の文化的な特性については顧みないところが少なくない。しかし、コミュニケーション一つとっても、それぞれの国で優先すべきポイントは違うのです。
ゆず兄弟は、もともと、ゆずのソフトドリンクを作る会社として3人で13年12月に設立しました。欧州にはないゆずを使った飲料を作り、輸出したいと考えたのです。しかし、瓶詰会社が見つからないなどの理由で、一旦断念。16年に私がコンサルティング会社や広告代理店時代の顧客を連れて再スタートし、その後2人が再参画しました。当社はベルリン、上海とシンガポールに支社があります。今後は、日本の伝統的な企業を海外で紹介するビジネスのほか、ゆず飲料事業もぜひ、実現させたいと考えています。
企業概要
事業内容:経営コンサルタント
本社所在地:東京都港区
設立:2013年12月
資本金:非公表
従業員数:15人
■人物略歴
マーカス・ウィンター(Markus Winter) 創設者・共同最高経営責任者
1987年ドイツ・バイエルン州出身。オランダ・マーストリヒト大学で欧州政治を専攻。2009年に来日し、英エコノミスト誌東京支局や一般社団法人Japan Innovation Networkで勤務。13年ゆず兄弟設立、17年再参画。
■人物略歴
ダビッド・ローシュハイド(David Röhrscheid) 創設者・戦略&イノベーション部門ディレクター
1985年ドイツ・ハンブルク出身。ドイツ・ハイデルベルク大学で物理学を専攻。08年に来日し、NTTデータの関連会社や新日本監査法人などでデータアナリストとして働く。13年ゆず兄弟設立、19年再参画。
■人物略歴
スベン・パリス(Sven Palys) 創設者・共同最高経営責任者
1987年英国出身。英国人の父とドイツ人の母を持つ。9歳から10年弱、中東のバーレーンで過ごす。英ケンブリッジ大学で日本学を専攻し、08年に来日。外資系コンサルタントのフラミンゴや広告代理店マレンロウに勤務し、13年ゆず兄弟を設立。