自助努力で乗り切れない危機=永江朗
出版業界も例外なく新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている。カミュの小説『ペスト』(新潮文庫)がベストセラーになったり、学習参考書が売れたりするなど、いわゆる「巣ごもり需要」はあるものの、総じてマイナスの影響が大きい。
最初に打撃を受けたのは付録付きの雑誌だった。というのも、付録のほとんどは中国で製造しているからだ。出版社では急きょ、定価を100円から200円程度下げて、付録なしで販売したり、発売日を遅らせたりして対処した。この10年、ファッション誌やライフスタイル誌の人気は付録によって支えられていただけに、「付録なし」が売り上げにどう影響するのか先が見えない。
感染が日本国内でも広がると、雑誌編集のさまざまな場面にも影響が及んできた。飲食店情報を扱うある月刊誌は、6月発売号を休止した。飲食店の多くが臨時休業して、取材そのものが困難になったからだ。ファッション誌でも写真の撮影ができなくなったり、読者を招いてのイベントが中止を余儀なくされている。
実は、書店の店頭売り上げは、感染症が拡大するまでは好調で、3月までは4カ月連続の前年超えだった(日販「店頭売上前年比調査」)。しかし、緊急事態宣言が出ると、大都市の大型店やチェーン店を中心に臨時休業に入る書店が増えた。多くが「当面の間」としており、いつ営業再開するか分からない。
営業を続けている書店も、客足は激減した。営業時間を短縮したり、カフェ部門を閉じたりしている。トークイベントも軒並み中止。毎日の売り上げ、いわゆる「日銭」でなんとかしのいできた零細な個人経営店にとっては危機的な状況だ。
出版社も書店もフリーランスやパート・アルバイトの非正規雇用者が現場を支えている。フリーカメラマンは撮影できなければ、パートの書店員は店が閉まれば、収入が途絶えてしまう。
3月末、介護・福祉系の教科書を出版していた小林出版が破産した。感染症拡大による大学休校の影響で、教科書の販売を計画通りに行うことができなくなったからだという。影響は弱小な個人や企業ほど深刻だ。早急な救済策が求められる。
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